カテゴリー別アーカイブ: 2a.連載:下川裕治

2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2016/2/23号 Vol.066


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

フィリピン航空が運賃を決める?

 マニラにいってきた。飛行機はフィリピン航空になった。別にこの航空会社が気に入っているというわけではない。運賃を検索していくとフィリピン航空になってしまった。いちばん安かったのだ。往復で4万円強である。
 最近、こんなことが多い。アジアの国際線の予約を入れようと検索していくと、LCCがモニターに出てこないのだ。運賃の安い順に並べると、レガシーキャリア、つまり既存の航空会社の名前が上位に挙がってくる。
 マニラを例にとれば、フィリピンのLCCセブパシフィックより、フィリピン航空のほうが安い運賃を出している。
 これはマニラに限ったことではない。東京発のバンコク、シンガポール、ホーチミンシティといった目的地への運賃検索の世界では、LCCの存在感が薄い。最近は台湾のチャイナエアラインが最安値をつけていることが多い。
 仮に同じ運賃なら、多くの人が既存の航空会社を選ぶ。預ける荷物は無料で、機内食も無料だ。実質的な運賃が安いことになる。ところが運賃そのものが、既存の航空会社のほうが安いとなると……。
 最近、中長距離路線のLCCの旗色がよくないのだ。以前はどこか意地になって最安値をつけていたようなところがあったが、息切れ傾向なのだろうか。
 エアアジアやスクートの長距離路線などを見ると、ビジネスクラス的な席や、食事つき、変更可能といった、少しグレードの高いLCCのクラスに力を入れているような気がする。既存航空会社のエコノミーとビジネスクラスの中間を狙う作戦だろうか。
 3、4年前のことだ。バンコクに住む知人が、フィリピン航空が安い……と教えてくれた。バンコクからマニラまで行かなくてはならなかった。航空券をどうしようかと思っているときだった。当時はLCCが全盛で、安い運賃といったらLCCという時代だった。
 実際、そうだった。その後、中国の東方航空や南方航空が、LCCを下まわる運賃を出しはじめた。そこにチャイナエアラインも加わってきた。その運賃に引きずられるように、タイ国際航空やシンガポール航空、日本航空、全日空も値段をさげてきた。
 LCCいじめのようになってしまった。これは結果なのか、意図的なものなのか。欧米でLCCが台頭してきたとき、既存の航空会社が連携を組んで、LCC潰しにかかったという。その話を聞いたとき、カルテルとも談合ともいえるにおいを感じたものだが、実際は、既存の航空会社間の競争だったような気がしないでもない。
 既存の航空会社として、LCCより安い運賃を打ちだすさきがけはフィリピン航空だった気がする。そういえば、アジアで最初のLCCはセブパシフィックだ。フィリピンのLCCである。
 アジアの航空運賃を動かしているのはフィリピンかもしれない。こんなことをいうと、航空業界の専門家たちは言下に否定するのだろうが。

2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2016/1/26号 Vol.064


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

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下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

LCCはホームページに似ている

 できるだけ多くの会社のLCCに乗ろうと企てているわけではない。LCCはサービスを省略することが基本姿勢だから、比較する要素が少ない。しかし同じ路線でも、毎回のように、搭乗するLCCが変わってしまう。理由はその料金と予約システムである。
 新規に乗り入れるLCCは、必ずといっていいほど、最安値を打ち出してくる。ときにサイトの不具合も起きる。その結果に過ぎないのだ。
 先月、タイのイサンにいた。ブアヤイという町のホテルで、パソコンを開いた。翌日、列車に乗ってウボンラーチャターニーに出るつもりだった。そこからバンコクに戻るLCCを予約しようとした。
 タイライオンエアが最安値で出てきた。3000円ほどだった。しかしタイライオンエアのサイトは、なかなかチケットを買うことができないことが多かった。途中から先に進めなくなったり、突然、トップページに戻っていまうことがよくあった。
 500円ほど高かったが、ノックエアにしようと思った。そのときは少し風邪気味で、早く予約を終え、寝たかった。翌朝は5時台の列車に乗らなくてはならない。
 しかしうまくいかなかった。予約はできるのだが、支払いの画面から先に進まない。何回やっても同じだった。
 「どうしようか……」
 困ってタイライオンエアにアクセスした。なんだか予約がスムーズに進む。サイトも改善され、わかりにくい表現もなくなっていた。そしてあっという間に、購入までが完了してしまった。
 タイから台湾に向かった。そこから帰国する。さて、どうしようか。航空券を検索すると、タイガーエア台湾が最安値をつけていた。
 タイガーエア台湾は2014年に運航を開始した。出資はチャイナエアラインが90%、タイガーエアが10%。チャイナエアラインの子会社のようなLCCである。台北―成田間に就航したのは、昨年の4月である。それから8ヵ月。最安値の位置を確保していた。
 当日、台湾桃園国際に向かった。チェックインカウンターには、長い列ができていた。タイガーエア台湾の成田便だけでなく、関空、厦門、張家界行きが同じカウンターだから、しかたなかった。やがて改善されていくのかもしれない。
 まず飛行機を飛ばし、追って修正していく。LCCの就航は、ホームページの立ちあげの発想にも似ている。

DSCN2078
タイライオンエアのフライトは、軽食もつく

2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2015/12/15号 Vol.061


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

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たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

ジェットスターは安定感を求める?

 LCCには相性というものがあるような気がする。運賃や時間帯がなぜか折り合わないのだ。
 旅の日程や目的地が決まる。そこで航空券を検索する。人によって検索方法はさまざまだろうが、僕はスカイスキャナーを見ることが多い。ずらりと検索結果が出てくる。
 スカイスキャナーですべてがわかるわけではない。なんとなく納得がいかないときは、LCCのサイトに入る。
 最近は旅行会社も見直している。LCCの世界ではないが、既存の航空会社の航空券をLCCより安く販売していることもある。
 そういう検索を続けながら、ひとつの便に絞られてくるのだが、そこからなぜか、ジェットスターが外されていってしまう。
 なぜだろうか。以前から考えることがあった。
 LCCを選んでいくとき、いちばんに惹かれるのは運賃である。各社安い運賃を提示するのだが、そこにはひとつの傾向があるような気がする。不定期に最安値を出し、存在感をアピールしていくLCCグループ。安い運賃順でいうと、常に2~3番目あたり金額を提示していくLCC群。
 ジェットスターは後者のような気がする。
 買う側の心理も状況によって変わっていく。ざっと見て、片道3000円台から5000円台の金額が並ぶと、運航時間を気にしはじめる。片道1万円を超えてくると、最安値のLCCに傾いていく。
 そういうなかで決めていく。そこでなぜかジェットスターが漏れてしまう。僕とは感性が違うのだろうか。いや、最も安定しているのかもしれない。僕の心の揺れより、安定感……。
 久しぶりにジェットスターに乗った。シンガポールーバンコク間である。運賃は5000円前後のLCCが並んでいた。いちばん早い時刻に出発するのがジェットスターだった。久しぶりに波長が合ったということだろうか。
 早朝のチャンギ空港でチェックイン。スタッフはまだいなかったが、セルフチェックインの機械がある。
 この機会を使うことはあまり多くない。クアラルンプールのエアアジアは、なぜか先に進まないことが多い。結局、チェックインカウンターに出向く。
 ジェットスターは? 試にやってみた。なんの問題もなく、スムーズに進み、簡単にチェックインが終わってしあった。
 安定感……。ジェットスターが訴求していることかもしれない。

DSCN1838
セルフチェックイン機がずらりと並ぶ(チャンギ空港)

2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2015/11/17号 Vol.059


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

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たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

LCC業界はIT業界?

 このところLCCに乗る機会が増えている。ンガポールとマレーシアの本を書くため、このエリアに就航するLCCを頻繁に利用しているからだ。月に平均すると、6回ぐらい乗っている。
 シンガポール、バンコク、クアラルンプールを結ぶ便が多い。エアアジア、タイガーエア、ジェットスター、ライオンエア、スクート……。時間帯や値段で、利用する便はまちまちだ。
 マレーシアの本を書いていて、あることに気づいた。マレーシアの輸送業界の民族構成である。
 マレーシアはマレー人、華人、インド系住民が暮らす多民族国家だ。そしてマレー人優遇策であるプミプトラ政策に傾いている。それが一因になり、輸送業界がみごとに分かれている。鉄道は国鉄色が強いためマレー人系である。バスは民間業者だから、華人経営が多い。そしてLCCであるエアアジアのトップであるトニー・フェルナンデスはインド系だ。
 その結果、鉄道が頼りにならない。遅れが多く、長距離路線は1日1、2本という頻度だ。それを補っているのがバスとLCCと思っていい。
 ではなぜ、エアアジアはここまで成長できたのか。そこには政府との関係もあったようだが、インド系スタッフのIT能力があったからのようにも思うのだ。
 同じ路線に就航するさまざまなLCCに利用するとき、予約サイトの使い勝手の差は歴然である。そして思うのだ。LCCとは運送業者ではなく、IT業者ではないか……と。
 このエリアを就航するLCCのなかで、エアアジア、ジェットスター、スクートは日本語で予約できる。やはりわかりやすい。
 しかし日本に乗り入れる前のエアアジアの予約では苦労した。英語サイトなのだが、わかりにくかった。それに比べると、タイガーエアは昔からわかりやすく、予約もスムーズだった。
 エアアジアは日本に合弁の形で乗り入れたが、そのときの日本語サイトはひどかった。日本語の意味がよくわからなかった。英語サイトの直訳が多かった。
 このエリアに就航するLCCでは、ライオンエアのサイトがわかりずらい。予約ができたのか、できなかったのか。いまでも不安を抱えて予約進めている。ライオンエアの予約サイトがしっかりしてくれば、集客はだいぶ増える気がする。なにしろ運賃はダントツに安いからだ。
 LCCとはIT業界、IT航空会社といってもいいのかもしれない。

DSCN2659
タイガーエア。この会社の予約サイトはわかりやすい。英語でも

2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2015/10/20号 Vol.057


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

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たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

LCCはもう安くない

 この連載はLCCをめぐる飛行機事情を軸にしている。しかし最近、LCCの風向きがよくない。
 高いのだ。
 高いというのは、僕がよく利用する東京とアジアを結ぶ路線である。
 たとえば東京―バンコク。年末の繁忙期前の料金でみると、ベトナム航空が往復で3万円台の後半。台湾のチャイナエアラインが4万円強という価格帯で出てくる。ジェットスターやエアアジアといったLCCは4万円台前半だ。ベトナム航空とチャイナエアラインは既存の航空会社だから、機内食が付き、預ける荷物は20キロまで無料。それを考えると、LCCはさらに高くなる。
 実際、スカイスキャナーで検索をしても、既存の航空会社が次々に出てきて、2~3ページ目でやっとLCCが出てくる。
 たとえば東京―シンガポール。所要時間を15時間までとして検索すると、ジェットスターとエアアジアの組み合わせで4万円弱。ベトナム航空は4万円強で、その差は4000円ほど。預ける荷物や機内食を考えるとほぼ一緒になる。所要時間を10時間以内にしていくと、全日空が最安値で出てきた。
 先月、ユナイテッド航空でシンガポールを往復したが、4万円台の後半だった。
 東南アジアの長い距離の路線では、LCCはかなり苦戦している。
 しかし短距離になると、もうLCCのひとり勝ちである。バンコク、シンガポール、クアラルンプールといった都市を結ぶ路線では、完全にLCCである。それぞれの区間は片道3000円から5000円といったところだろうか。
 この路線には、新たなLCCも就航をはじめ、競争も激しくなってきている。
 LCCはその勢いに乗って、長距離路線に進出していった。しかし既存の航空会社には一日の長があったということなのだろうか。あるいはLCCへの対抗価格を打ち出しているということなのだろうか。
 既存航空会社とLCCの住み分けは、しだいに落ち着いてきた気がしないでもない。中短距離のLCCと長距離の既存航空会社という構図である。
 なんでもLCCは安いという時代は終わりつつある。

DSCN18182
東京―シンガポール間のユナイテッド航空の機内食。年を追ってしょぼくなってきている

2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2015/9/22号 Vol.055


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

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たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

ボーディングブリッジがついたKLIA2

 なかなか利用する機会がなかった。クアラルンプールのKLIA2である。かつてのLCCT(格安航空会社ターミナル)がなくなり、昨年、新しく登場したLCC専用ターミナルである。
 いまの東南アジアは、エアアジアやタイガーエアウエイズといった先行LCCより安いLCCが登場してきている。安さを優先していくと、エアアジアに乗る機会が減ってきている……ということかもしれない。
 KLIA2はまるでショッピングモールのようだった。マレーシアの空港やバスターミナルは、ショッピングモールとの一体化がひとつの傾向である。KLIA2もその流れを受けていた。
 店が並ぶフロアーをあがると、チェックインフロアーになる。以前よりだいぶ広くなった。といっても、スタッフ数はそれほど増えていないようで、開いているカウンターはそう多くない。システムやかかる時間も大差はない。イミグレーションを抜けると搭乗口に進む通路にでる。
 KLIA2の構造は、成田空港の第2ターミナルによく似ていた。メインターミナルがあり、そこから延びる通路を進むと、出島のような搭乗ターミナルになる。
 しかし規模は大きい。成田空港の第2ターミナルの2倍はあるだろうか。そこを歩くわけだから、搭乗口によってはかなりの時間がかかる。
 この規模に、エアアジアの自信が伝わってくる。これからもLCCはますます路線や便数が増えていくと読んでいるのだ。
 かつてのLCCTには、経費を節約する工夫がいくつもあった。チェックイン前の待合室は半屋外だった。搭乗時にはボーディングブリッジを使わなかった。歩いて飛行機に向かい、タラップを登った。そこには、「これがLCCの流儀」という主張があった。アジアのバスターミナルを思いだし、僕はちょっとうれしかった。
 しかしKLIA2からは、そのすべてが消えた。普通のターミナルなのだ。ターミナルそのものをLCC仕様にすれば、飛行機まで歩く必要がないということなのだろうか。それが進化というものだろうか。しかし運用がはじまった成田空港の第3ターミナルは、飛行機まで歩く設計だ。
 LCCの世界は、めまぐるしく変わっていくものらしい。

DSCN1792
ボーディングブリッジは中国製。その簡素さがちょっとLCC

2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2015/8/25号 Vol.053


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

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たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

寝ることをついに許した?

 前号に続く成田空港の第3ターミナル。今年4月、LCC専用ターミナルとしてオープンした。
 LCC専用ターミナルとしては周回遅れの感がある。それを物語るように、成田空港に就航するLCCのなかで、第3ターミナルに移ったのは5社に過ぎない。運用や利用料の面でメリットを感じることができないのだろう。
 しかし後発のLCC専用ターミナルだけあって、おそらく世界のLCC専用ターミナルのなかでは、いちばん使い勝手がいいかもしれない。そのポイントはフードコートと横になって眠ることができるソファベンチだろうか。
 フードコートというのは、たくさんテーブルの周りを飲食店が囲むスタイルの施設である。この食堂スタイルは、LCC専用ターミナルではないが、いくつかの空港で採用されている。香港、ソウル、バンコク……などだ。日本の空港ではあまり見かけなかった。LCCという名のもとで実現したのだろうか。ハンバーガー、麺類、コーヒーなど、東京ではおなじみのチェーン店が出店している。朝の4時から開店する店が多い。LCCは早朝便が多いからだろう。
 秀逸なのは、横になって寝ることもできるソファベンチである。早朝便に乗るためにバスでやってくる場合、徹夜や睡眠1時間といった状態になる。フィードコートを囲むようにつくられたソファベンチはありがたい存在かもしれない。
 世界の空港のベンチは、眠りにくい構造に苦心してきた。横になることはできても、椅子の突起が背中にあたったり、なかには手すりをつけて、横になることを防ぐようになっていた。空港で眠ることがいけないわけではないが、ひとりで椅子何個分も占有してしまうことを防ぐことが目的のように思う。
 僕は那覇行きの朝便に乗ったが、何人かが寝ていた。子供や欧米人が目についたが。
 しかしソファベンチを置くことができるのは、利用客数が少ないからだ。クアラルンプールのLCCターミナルを見ても、便数や利用客が多く、座る場所探しにさえ苦労するほどだ。
 できるならこのソファベンチを世界の空港に普及させてほしいと思うが、それがままならないのが世界の空港事情である。
 ソファベンチは第3ターミナルのPR素材にも映る。

DSCN1666
雨天用の通路。これはほかの空港でも採用してほしい

2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2015/7/14号 Vol.051


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たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

第3ターミナルは周回遅れ?

 早く使ってみたい……とは思っていた。成田空港の第3ターミナルである。LCC専用ターミナルとして、今年の4月にオープンしていた。
 LCC専用ターミナルといっても、成田空港に乗り入れているLCCのすべてが、この第3ターミナルを使うようになったわけではない。いま、成田空港に乗り入れているLCCは十数社。そのうち、第3ターミナルに移ったのは、ジェットスター・ジャパン、バニラエア、春秋航空日本、ジェットスター、チェジュ航空の5社である。
 クアラルンプールではじめて、LCC専用ターミナルというものを体験したときは新鮮だった。格納庫のような簡素なターミナルで、乗客は飛行機まで歩いた。クアラルンプールは南国だから、ときおり、激しいスコールに見舞われる。それ用に傘が置いてあった。
 とにかく経費を節減すること──。それをアピールするかのようなターミナルだったのだ。その後、シンガポール空港にもLCC専用ターミナルができた。
 しかしそこまでだった。アジアでLCCはその路線を広げていったが、香港、仁川、スワンナプームといった利用客の多い空港は、それまでの施設を使った。香港にはバス便専用ターミナルができたが、LCC専用ではない。 スワンナプームはLCCの一部がドーンムアンに移ったが、古い空港を使っただけのことだ。そうこうしているうちに、シンガポールのLCC専用ターミナルが閉鎖された。LCCは既存のターミナルを使うという流れがアジアではできていた。LCCが特別なものではなくなってきたからだ。
 しかし日本は独自の道を歩む。那覇に続いて成田にもLCC専用ターミナルができた。関西の第2ターミナルもピーチ・アビエーション専用の感がある。
 周回遅れ? そんな気がしてしかたなかった。LCCへの依存度は東南アジアに比べれば低い日本。それなのにLCC専用ターミナルなのである。
 ポイントは離発着にかかる空港利用料である。これが圧倒的に安ければ、LCC各社はこぞって第3ターミナルに移っていく。その金額を運賃に反映すれば、ひとつの競争力にもなる。今後、大幅な値下げはあるのかもしれないが、第3ターミナル利用で航空会社が負担する額は、第1ターミナルや第2ターミナルと大差はない。
 金額的な魅力がなかったら、残るのは第3ターミナルの利便性ということになってくる。なかなか厳しい船出なのだ。
 はたして本当に便利になったのだろうか。そのあたりは次回に。

DSCN1662
第3ターミナルではジェットスターが存在感を発揮している

2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2015/6/30号 Vol.050 無料版


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たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

オプショナル予約はしなくてもいい?

 いつも通りのタイガーエアウエイズである。6月13日。バンコクからシンガポールまで乗った。
 飛行時間は2時間半ほどである。これぐらいの距離なら、有料の座席指定はしない。LCCの機体はだいたい、中央の通路の左右に3席である。中央の席にあたる確率は3分の1。仮に中央の席になったとしても、2時間半なら、それほど大変ではない。


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2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2015/6/16号 Vol.049 無料版


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LCCと思われがちなトランスアジア航空

最近、アジアの空港の電光掲示板でトランスアジア航空という会社を、ときどき見かけるようになった。
「新しいLCC?」
調べてみると復興航空だった。昔からある台湾の航空会社である。以前、金門島に向かったときに乗った。台湾の国内線というイメージがあったが、最近、国際路線を増やしているようだ。
しかしトランスアジア航空の名前を一気に広めたのは、皮肉にも昨年と今年の事故だった。とくに今年の事故は、基隆河に墜落する映像が流れ、名前が知れ渡ってしまった。


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