2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

Profile
プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅をしながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第四回 吉田友和

す スタンプラリー

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

ちょうどいい具合に、前回のキーワード「ユーレイルパス」から繋げられそうな話題と言える。ヨーロッパを鉄道で巡ったと書いたが、その旅で印象的な出来事があった。旅の後半、ベルギーへ辿り着いた時のことだ。その後のルートをどうするかで少し頭を悩ませた。最終的にアイルランドを目指していた僕は、ユーロスターでドーバー海峡を渡り、イギリスを目指すつもりだった。ところがここで、ベルギーに隣接するルクセンブルクが気になり始めたのだ。人口わずか五十万人強の小さな国。フランスやドイツといった大国に挟まれながらも、れっきとした独立国として存在する。
旅をしていると、ついつい欲深くなる。ルクセンブルクへは、僕が持っていたユーレイルパスで訪れることができた。正直に言って、予備知識はほぼゼロに近い。まるでイメージが湧かないけれど、追加料金なしで行けるなら……という皮算用が頭をよぎる。なかなか行く機会のなさそうな国が手の届く距離にある事実に、判断を迷わせられたのだった。
結論としては、ルクセンブルクへは行かなかった。寄り道するとイギリスの滞在時間が減ってしまうので、潔くあきらめることにしたのだ。イギリスは過去にも何度か来ているが、僕には未訪問のルクセンブルクよりもイギリスのほうが魅力的だった。
行ったことのない国へ行く――そんな思考で旅先を選ぶのは不自然ではない。訪問済みの国は選択肢から除外し、毎回違う国を目指すような旅人は実際少なくないだろう。しかしどちらかと言えば、僕はあまりこだわらないタイプだ。
小学生の頃の、確か夏休みだったと記憶している。東京都内の地下鉄駅を巡る、スタンプラリーに参加したことがあった。明確な目標と共に何かを制覇する行動は、子ども心にも大きな達成感をもたらす。いまでも覚えているのは、楽しかった思い出だからだろう。ちなみにこのスタンプラリー、現在も夏の風物詩として続いているらしい。社会科見学も兼ねられる一石二鳥の素敵な試みだ。
訪問国数を増やすことを目的としながら旅する行為は、形は違えどスタンプラリーの一種にも思える。パスポートのページが埋まっていくことにカタルシスを覚えるような感覚なのかもしれない。ページが埋まるのは、必ずしもいいことばかりではない。増補するにはお金がかかるし、国によっては入国審査で怪しまれるきっかけにもなる。
「これまで旅したのは何ヶ国ですか?」
よく受ける質問の一つだ。旅を始めた最初の頃こそ数えていたが、いまは自分でも把握していない。数字は目に見える形で表れるとはいえ、行った国の多さが何かの勲章になるはずもない。何ヶ国訪れたかなんて、気にしてもさして意味はない気がするのだ。行きたくもない場所へ無理に行く必要はないとも思う。
旅先を選ぶ基準なんて人それぞれだから、別に殊更異を唱えるつもりはない。けれど少なくとも僕は、スタンプラリー的な旅にはそれほど魅力を感じないのだ。その時に自分が一番行きたいところへ行く。それでいいではないか。そして気に入ったのなら、同じ国を何度も訪れたっていい。いわゆるリピーター……あっ、またしても上手くしりとりでキーワードが繋がった。続きは次回に。

※すたんぷらりー→次回は「り」がつく旅の話です!

2b. 連載:「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和  2013/08/13号 Vol.004


2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

Profile
プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅をしながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第四回 吉田友和

す スタンプラリー

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

ちょうどいい具合に、前回のキーワード「ユーレイルパス」から繋げられそうな話題と言える。ヨーロッパを鉄道で巡ったと書いたが、その旅で印象的な出来事があった。旅の後半、ベルギーへ辿り着いた時のことだ。その後のルートをどうするかで少し頭を悩ませた。最終的にアイルランドを目指していた僕は、ユーロスターでドーバー海峡を渡り、イギリスを目指すつもりだった。ところがここで、ベルギーに隣接するルクセンブルクが気になり始めたのだ。人口わずか五十万人強の小さな国。フランスやドイツといった大国に挟まれながらも、れっきとした独立国として存在する。
旅をしていると、ついつい欲深くなる。ルクセンブルクへは、僕が持っていたユーレイルパスで訪れることができた。正直に言って、予備知識はほぼゼロに近い。まるでイメージが湧かないけれど、追加料金なしで行けるなら……という皮算用が頭をよぎる。なかなか行く機会のなさそうな国が手の届く距離にある事実に、判断を迷わせられたのだった。
結論としては、ルクセンブルクへは行かなかった。寄り道するとイギリスの滞在時間が減ってしまうので、潔くあきらめることにしたのだ。イギリスは過去にも何度か来ているが、僕には未訪問のルクセンブルクよりもイギリスのほうが魅力的だった。
行ったことのない国へ行く――そんな思考で旅先を選ぶのは不自然ではない。訪問済みの国は選択肢から除外し、毎回違う国を目指すような旅人は実際少なくないだろう。しかしどちらかと言えば、僕はあまりこだわらないタイプだ。
小学生の頃の、確か夏休みだったと記憶している。東京都内の地下鉄駅を巡る、スタンプラリーに参加したことがあった。明確な目標と共に何かを制覇する行動は、子ども心にも大きな達成感をもたらす。いまでも覚えているのは、楽しかった思い出だからだろう。ちなみにこのスタンプラリー、現在も夏の風物詩として続いているらしい。社会科見学も兼ねられる一石二鳥の素敵な試みだ。
訪問国数を増やすことを目的としながら旅する行為は、形は違えどスタンプラリーの一種にも思える。パスポートのページが埋まっていくことにカタルシスを覚えるような感覚なのかもしれない。ページが埋まるのは、必ずしもいいことばかりではない。増補するにはお金がかかるし、国によっては入国審査で怪しまれるきっかけにもなる。
「これまで旅したのは何ヶ国ですか?」
よく受ける質問の一つだ。旅を始めた最初の頃こそ数えていたが、いまは自分でも把握していない。数字は目に見える形で表れるとはいえ、行った国の多さが何かの勲章になるはずもない。何ヶ国訪れたかなんて、気にしてもさして意味はない気がするのだ。行きたくもない場所へ無理に行く必要はないとも思う。
旅先を選ぶ基準なんて人それぞれだから、別に殊更異を唱えるつもりはない。けれど少なくとも僕は、スタンプラリー的な旅にはそれほど魅力を感じないのだ。その時に自分が一番行きたいところへ行く。それでいいではないか。そして気に入ったのなら、同じ国を何度も訪れたっていい。いわゆるリピーター……あっ、またしても上手くしりとりでキーワードが繋がった。続きは次回に。

※すたんぷらりー→次回は「り」がつく旅の話です!