3a. tabinote旅行記 エアアジアXで行く! キナバル山日帰り登頂-その2

 
tabinoteワタベです。今年6月のキナバル山登山、数回に渡ってレポートします。
ちんたら書いているので全然終わりが見えませんが、今回が2回目です。

一日目:登山許可申請

前回まで:キナバル山を日帰りで登るためにエアアジアでボルネオ島のコタ・キナバルへ来た私。タクシーとバスを乗り継ぎ、登山許可を申請するキナバル公園のゲートに着いた。

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(画像:tabinote)


とりあえずカートを引きながらキナバル公園の管理事務所へつづく階段を上る。
うーむ、この階段でもう息が切れそう。
管理事務所に入り、近くにいた人に日帰り登山を申請したい旨話したところ、しばらく待つように言われる。

その後案内されたのは公園管理人の部屋。
管理人はMr. Peninsus。海外ブログでも「彼のサジ加減一つで許可がおりるかどうか決まるのでは」などと書かれている。
今回の計画で最初にして最大の関門が登山許可の取得。これが取れなかったら残りの日々を過ごすアテはまるでない。

事前情報によると日帰り登山の許可は1日に4組。前日に1クラス分くらいの日帰り登山希望者が管理事務所に殺到していたらたっぷり一週間は登れないことになる。渡航した6月はマレーシアの学校休暇と重なってるようで、リゾート地はかなり混み合うらしいというイヤな情報も聞いていた。

不安の中、「日本から来た、日帰り登山したい」という主旨のことを話すと、特にこちらの体力レベルをいぶかしむことも経験を尋ねることも無く、あっさり「OK」と言って書類を探し始めた。なんか拍子抜け…。
しかも明日の金曜・土・日、どの日も空きがあるという。
雨季に日帰りで登る物好きはそうはいないということか。

さて、今この場で登る日を今決めなければならないという状況になり、迷った。
 P氏 「ところで、いつ登りたいんだ?」
 私  「ええと、できれば明日(金曜日)…」
 P氏 「そうか。ただ明日は完全に雨だと聞いている。やめた方がいい
 私  「では、土曜日は?」
 P氏 「土曜は曇りだが、降るかもしれない
 私  「日曜の天気は?」
 P氏 「降るかもしれない

万全な日は無い模様。仕方なく、土曜日にした。土曜がダメなら日曜にチャレンジすればいい。
多少雨が降っても、登頂さえしてしまえばあとは降りるだけだ。午前さえ天気が保ってくれれば構わない。それに、公園周辺は山以外に何も無いへき地で、日曜まで過ごすのはつらそうだった。コタ・キナバル市街で一日くらい過ごしたかったし。

Peninsus氏がパスポート番号や連絡先を控えている間、私は何か起きても公園事務所は関知しない云々の承諾事項にサイン。最後に許可証に彼が署名して終了。

私  「ところで、今日日帰りで登った登山者はいたの?」
P氏 「2組登ったが、1組はリタイヤしたもう1組はラバン・ラタ(3,273m)まで行ったが雨でリタイヤだ。今下山している」

こんな雨の日に2組もいたのか!でもリタイヤ…。
サイン済みの許可証をもって管理事務所を出た。
小雨空で外は暗く、明日登山ができるようにはとても思えない。明後日、土曜にしといて良かった。それまでに雲が減ってくれることを願う。

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(画像:tabinote)

さて、許可証を見ていると気になることを見つける。
事前調査では、制限時間は登り5時間半、下り4時間半と控えていた。

登山口のティンポポンゲート(Timpohon;標高1,866m)を7時~7時半にスタート。時間制限は2箇所で、ラバン・ラタ(3,273m)に午前10時、次に最高地点のロウズ・ピーク(Low’s Peak;4,095m)が13時。登頂後、出発地点のティンポポンゲートまで17:30には戻る必要あり。したがって登頂までの制限時間は5時間半、13時に下山した場合下りの制限時間が4時間半

しかし、許可証にはゲートクローズが16時半となっている。下りもちんたら降りてたらアカンということか。

管理事務所からカートを引いて階段を降りる途中、最後の濡れた段で足を滑らせ盛大にコケた。腰をぶつけて半端なく痛い。遠くで談笑中っぽいガイド達(推定)が一斉にこちらを振り向く。
こんな有様で登れるのか、先が思いやられる…。

さて、事務所から麓に降りる途中で、山の方からクルマが一台。
中から濡れネズミのようになった190cmくらいの白人がトボトボ降りてきた。
上下黒のレインウェアと巨大なザック、無帽。
水滴混じりの髪はぺったりと額に貼り付き、心底疲れ切ったご様子。

あー、リタイヤした人ってきっとあの人だな…。
どう見ても普通ではない様子を見て、はじめてキナバルの山裾を見たとき同様軽くびびる。

6月のボルネオ島はクソ暑いはずだが、ここキナバル公園は既に標高1,600mの高地。夕方になって体感気温は15度を切っており、雨のためさらに寒く感じる。山は一般的に100m高くなれば0.6度気温が下がるとされているので、2,000m登ればそれだけで12度ダウン。頂上で風が吹けばたちまち0度くらいになるだろう。雨に濡れれば命取りだ。帽子かぶっていった方がいいな…。

さて、痛む腰を気にしつつ、公園から出て宿を探しに行く。
世界攻略者さんの旅行記にもあったTahubangロッジだ。運良くシングルが空いているとのことで、そちらに滑り込む。
荷物を置いてようやく一息。

↓左がレストランで、右がTahubangロッジ。おそらくどちらも生協のようなグループがやってる。ホントに公園ゲート目の前。
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(画像:tabinote)

ともかく、最大の関門、登山許可をゲットした。あとは明後日の好天を祈るだけだ。

ここまで移動に次ぐ移動で息もつけなかったので、腹が減ってきた。
宿の隣の食堂に向かう。
山の方を見るとキナバル山の山頂あたりに灰色の雲が渦巻いている。低い場所の雲が晴れ、山の全容が徐々に見えてきた。でかいなー。そして時折、山頂の凶悪なギザギザが顔をのぞく。
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(画像:tabinote)


さて、前回触れた通り日帰り登山の条件は以下の通り。

・運良く滞在中に日帰り登山枠の空きがある。 ->クリア!
・天候に恵まれる ->怪しい
・高山病が出ない ->?
・体力が保って制限時間内に登れる ->?

次の懸案は天気と高山病だった。
滞在日程は決まってしまっているので、天気は運に任せるしかない。そもそもあの申し込みシステムだと確実に好天になる前日まで現地で粘るのが最善だが、今回それは日程的に無理だった。6~7月にかけてのボルネオ島は年間で最も雨が多い時期の1つ(6~7月と9~11月は月間平均雨量が250~400mmに達する)。熱帯特有の激しい雨も降るということで、はっきり言って登山には不向き。

高山病も未知だ。これまで私が行った最高地点はせいぜい2,000mレベルだし、平素高所に強い人でも突然症状が出たりすることもあるらしい。これも天候同様にどうにもならない。
急性高山病-日本登山医学会

唯一自分でコントロールできそうな条件は体力。
ロンリープラネット・ボルネオに記載のあった「日帰り登山には非常な健脚が必要」という記述だけではどのくらいの健脚なら大丈夫なのかさっぱりわからないので、具体的にどのくらいの体力が必要なのかを渡航前に見積もっておいた。

参考としたのはキナバル山を山頂まで登る鉄人レース、キナバル登山マラソン。
開催年によってコースが違うのでなかなか比較が難しいのだが、登りの距離が今回の日帰り登山と同じ2011年のレースを参照した。

(画像:myrunningescapades.blogspot.jp)

この年のレースは登りがティンポポンゲート(標高1,866m)から8.7km登って頂上まで。下りはティンポポンゲートよりさらに4kmほど下ったキナバル公園(標高約1,600m)まで。下りが4kmほど長いが登りは日帰り登山の公式コースと同じである。
覇者はイタリア人のMARCO DE GASPERI。この時の記録は登りが1時間35分、下り含むフィニッシュタイムは2時間34分。日帰り登山の登りは制限時間が5時間半だから、なんとその1/3の時間で登っている。
1時間35分というと、だいたい陸上世界記録の30km~35kmくらいのタイム。
上り下りなら2時間半だが、下りが日帰り登山のコースより4km長い点を差し引くと2時間15分くらいでスタート地点に降りてきたことになる。

つまり、世界トップアスリートが1時間35分かければ、平地なら30km~35kmくらい走れ、キナバルなら頂上まで行けるということになる。そして、2時間15分もあれば、平地なら42kmを完走し、キナバル山ならスタート地点まで降りられる…。
2011年の8位の日本人・小川壮太選手の場合フルマラソンの記録が残っているのでより参考になる。キナバルの登りが1時間58分、フルマラソンが2時間26分(大学時代の記録)。マラソンタイムから逆算すると、やはり頂上着は35km地点くらいのタイムとなる。

ここから、キナバル日帰り登山はフルマラソンくらいの体力負荷、登りだけなら35km走くらいの負荷ではなかろうかと見積もった。
体力的に問題となるのは登りだけだろう。日帰りの登り制限時間は5時間半なので、その間に35kmを走れるくらいの体力があればいいということになる。一般的な市民ランナーで、フルマラソンを4~5時間で走る人は珍しくない。まして35kmを5時間半なら1kmあたり…10分?歩くくらいのペースだ。たいしたことないじゃないかも?
推定に推定を重ねた話ではあるが、具体的な数字が見えてくると結構なんとかなるかもという感じがしてきた。

とりあえずこの日はカレーを流し込んで早めに寝る。
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(画像:tabinote)

明日はすることもないので、周辺散策でもすることにしよう。

二日目:周辺散策

金曜日。やはり朝から小雨まじりの曇り空。

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(画像:tabinote)
キナバル山頂には盛大に雲がかかっている。

この日は明日の登山に備えた待機日。
本来は休養日にあてるべきかもしれないが、ネットも遅く本も読んでしまってすぐにやることがなくなる。隣室の中国人の子供が素晴らしくしつけが効いておりうるさくて寝ることも出来ない。
外出してヒマをつぶすことにした。

キナバル公園は、登山者のベースキャンプのようなところで、植物園や散策用の山道(トレイル)を除くと何もない。
公園内には高級リゾートグループのステラが経営する快適なホテルがあり、待機組が室内で過ごしてもそれほど退屈しない設備があるのかもしれないが、公園外の安宿に泊まる私には無縁。
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(キナバル公園マップ、画像:tabinote)

宿の隣の食堂で朝食の焼きソバを食った後、公園内にあるという植物園に行くことにした。
ボルネオ島の熱帯植物やキナバル山の高原植物などが集めてあるという。
世界最大の花、ラフレシアや巨大なウツボカズラもボルネオ島の固有種とのことで、期待が高まる。

公園のゲートをくぐる。
そのうち晴れ間が出てきて、傘なしでも歩けるようになってきた。あれ、今日登った方がよかったかな?
昨日入場時に支払った15リンギット(RM)のチケットは3日間有効らしく、顔パスで通してくれた。
ゲートをくぐると公園内の地図があり、眼下にレストランが見える。キナバル山を牛耳る高級リゾート、ステラのレストランだ。白人ツーリストがちらほら見える。
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(画像:tabinote)

レストランの脇を通って遊歩道をしばらく歩くとロッジや博物館などいろいろな施設があるが、とくに時間をつぶせるような感じはない。そもそも朝なので空いてない。
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(画像:tabinote)

巨大なラフレシアの看板。
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(画像:tabinote)

長い階段道を上る。
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(画像:tabinote)
ここまで来る間にも昨日管理事務所の階段でこけ、したたかにぶつけた腰がジンジン痛む。
悪化しなければいいけど。

そして入り口へ。
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(画像:tabinote)

入場口、誰もいない
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(画像:tabinote)

入場料(5RM)払わなくていいの?
入っちゃうよ…?
まあ、出るとき受付係が居たら払えばいいかと思い、中へ。

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(画像:tabinote)

はっきり言って、それほど見るべきものは無かった。なんというか、適当に木が植わっているという感じ。
貴重な植物群なのかもしれないが今ひとつ目立つモノがなく、30分くらいで一周してしまった。
しばらくすると人の声…。なんと日本人!
青いHISのジャンパーを着たガイドが、初老の日本人旅行者数名を相手に解説をしている。昨日から空港周辺はおろか公園内でも全く日本人を見ていなかったので新鮮な感じ。
ガイドの話によると、大きなウツボカズラがあるとのことなので再度巡ってみたが…、枯れていた。
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(画像:tabinote)

仕方なく一周して入り口(兼出口)に戻ると、やはり誰も居ない
やる気なさすぎだろ!
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(画像:tabinote)

5RM札をカウンターに置いて出た。


植物園で全くヒマがつぶせなかった。コタ・キナバルに戻って観光してもいいが片道2時間かかる。
近場に街が無いか聞いてみると、ラナウという街が最も近いという。
ラナウについて調べてみると、パンクなモチーフで知られる木版画の工房があるという。楽しいかもしれない。
さっそく昼飯を食って(また焼きソバ)、ラナウ方面行きの乗り合いバス乗り場に向かう。
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(画像:tabinote)

ちなみに、公園と宿(Tahubangロッジ)の位置関係は以下の通り。登山口方面が植物園。
バス乗り場も宿の隣で大変便利。
キナバル公園   Google マップ
(地図:Google)

ラナウ行きの乗り合いバスはなかなか発車しない。
運転手が今すぐ行くから50RMではいかがか?と提案してきた。
相場がわからないが…、確かコタ・キナバルからの乗り合いバスは8人で20RM、ラナウまでは半分の道のりとして正規料金は10RMくらいか。8人乗りなら本来80RMは欲しいところだろう、そうすると50RMは決して法外では無いが、コタ・キナバルまで20RMで行けるのにいかにも高い。20RM以下ということで交渉し、19RMで成立。他のアジアのドライバーのようにしつこい交渉はなく、あっさりしていた。

やはり山道をガタゴトゆられてラナウ村に到着。
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(画像:tabinote)

ラナウはキナバル山を臨む街道沿いのバザールという感じ。
Wikipediaで後から見たところ人口10万人ということなので、村と呼ぶのは失礼な話なのだが、どう見ても「集落」くらいの規模。
村一番の人気スポットがケンタッキー、あとはローカル食堂やショップがメイン。
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(画像:tabinote)

日本人が訪れることはほとんど無さそうな規模であったが、この地は旧日本軍がむちゃな捕虜行軍で多数の犠牲者を出した「サンダカン死の行進」のゴール地点。追悼&記念施設もあるようだが、それは出発地のキナバル公園とラナウの間くらいにあり、ラナウの中心からは相当離れている模様だったため、訪問を断念した。

蒸し暑い中、イスラム料理屋(?)で焼きソバを食い、水を一本買って散策を開始。

・・・単なる田舎町。
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(画像:tabinote)

マレーシアやインドネシアはブラックベリーが多いらしい。
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(画像:tabinote)

ボルネオはリゾートなので、こんなバイクもある(たぶんレンタル)。
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(画像:tabinote)

散策といっても規模が小さいので、すぐに見尽くしてしまう。
強烈に小便臭いビルの2階にようやく例の版画工房を発見したが、閉まっていた…。
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(画像:tabinote)

若者は多いが、ゲームセンターかケンタッキー、カフェでスマホなど、ヒマをもてあましている連中が目につくのは日本と変わらない。特にケンタッキーは混みまくりだった。
夜中はムエタイの興業がある模様。少し興味があったが、残念ながら日程があわず断念。
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ラナウ自体は数時間ヒマがつぶせればラッキーくらいの規模なので、もし登山待機日が2~3日あったならばいっそコタ・キナバルに戻るか、サンダカンにでも向かった方がいいかもしれないと思った。

さて、陽が落ちる前に乗り合いバスでキナバル公園に戻る。

雲が増えてきた気がする。大丈夫かな…。
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(画像:tabinote)


夕飯(カレー麺)をとって宿に戻り、再度公園へ。
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(画像:tabinote)

日が落ちてラバン・ラタ小屋(標高3,273m)の明かりが見える。相変わらず雲は晴れない。
今日は小雨程度なのでなんとかあそこまでは行けただろう。明日はご来光目当ての宿泊組が早朝にアタックする。
私の出発はその後、午前7時半。
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(画像:tabinote)

もうこうなったらどんな天気だろうが登るしかない。
宿に戻って準備をすることにした。

(続く)

3a. tabinote旅行記 エアアジアXで行く! キナバル山日帰り登頂-その2


3a. tabinote旅行記 エアアジアXで行く! キナバル山日帰り登頂-その2

 
tabinoteワタベです。今年6月のキナバル山登山、数回に渡ってレポートします。
ちんたら書いているので全然終わりが見えませんが、今回が2回目です。

一日目:登山許可申請

前回まで:キナバル山を日帰りで登るためにエアアジアでボルネオ島のコタ・キナバルへ来た私。タクシーとバスを乗り継ぎ、登山許可を申請するキナバル公園のゲートに着いた。

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(画像:tabinote)


とりあえずカートを引きながらキナバル公園の管理事務所へつづく階段を上る。
うーむ、この階段でもう息が切れそう。
管理事務所に入り、近くにいた人に日帰り登山を申請したい旨話したところ、しばらく待つように言われる。

その後案内されたのは公園管理人の部屋。
管理人はMr. Peninsus。海外ブログでも「彼のサジ加減一つで許可がおりるかどうか決まるのでは」などと書かれている。
今回の計画で最初にして最大の関門が登山許可の取得。これが取れなかったら残りの日々を過ごすアテはまるでない。

事前情報によると日帰り登山の許可は1日に4組。前日に1クラス分くらいの日帰り登山希望者が管理事務所に殺到していたらたっぷり一週間は登れないことになる。渡航した6月はマレーシアの学校休暇と重なってるようで、リゾート地はかなり混み合うらしいというイヤな情報も聞いていた。

不安の中、「日本から来た、日帰り登山したい」という主旨のことを話すと、特にこちらの体力レベルをいぶかしむことも経験を尋ねることも無く、あっさり「OK」と言って書類を探し始めた。なんか拍子抜け…。
しかも明日の金曜・土・日、どの日も空きがあるという。
雨季に日帰りで登る物好きはそうはいないということか。

さて、今この場で登る日を今決めなければならないという状況になり、迷った。
 P氏 「ところで、いつ登りたいんだ?」
 私  「ええと、できれば明日(金曜日)…」
 P氏 「そうか。ただ明日は完全に雨だと聞いている。やめた方がいい
 私  「では、土曜日は?」
 P氏 「土曜は曇りだが、降るかもしれない
 私  「日曜の天気は?」
 P氏 「降るかもしれない

万全な日は無い模様。仕方なく、土曜日にした。土曜がダメなら日曜にチャレンジすればいい。
多少雨が降っても、登頂さえしてしまえばあとは降りるだけだ。午前さえ天気が保ってくれれば構わない。それに、公園周辺は山以外に何も無いへき地で、日曜まで過ごすのはつらそうだった。コタ・キナバル市街で一日くらい過ごしたかったし。

Peninsus氏がパスポート番号や連絡先を控えている間、私は何か起きても公園事務所は関知しない云々の承諾事項にサイン。最後に許可証に彼が署名して終了。

私  「ところで、今日日帰りで登った登山者はいたの?」
P氏 「2組登ったが、1組はリタイヤしたもう1組はラバン・ラタ(3,273m)まで行ったが雨でリタイヤだ。今下山している」

こんな雨の日に2組もいたのか!でもリタイヤ…。
サイン済みの許可証をもって管理事務所を出た。
小雨空で外は暗く、明日登山ができるようにはとても思えない。明後日、土曜にしといて良かった。それまでに雲が減ってくれることを願う。

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(画像:tabinote)

さて、許可証を見ていると気になることを見つける。
事前調査では、制限時間は登り5時間半、下り4時間半と控えていた。

登山口のティンポポンゲート(Timpohon;標高1,866m)を7時~7時半にスタート。時間制限は2箇所で、ラバン・ラタ(3,273m)に午前10時、次に最高地点のロウズ・ピーク(Low’s Peak;4,095m)が13時。登頂後、出発地点のティンポポンゲートまで17:30には戻る必要あり。したがって登頂までの制限時間は5時間半、13時に下山した場合下りの制限時間が4時間半

しかし、許可証にはゲートクローズが16時半となっている。下りもちんたら降りてたらアカンということか。

管理事務所からカートを引いて階段を降りる途中、最後の濡れた段で足を滑らせ盛大にコケた。腰をぶつけて半端なく痛い。遠くで談笑中っぽいガイド達(推定)が一斉にこちらを振り向く。
こんな有様で登れるのか、先が思いやられる…。

さて、事務所から麓に降りる途中で、山の方からクルマが一台。
中から濡れネズミのようになった190cmくらいの白人がトボトボ降りてきた。
上下黒のレインウェアと巨大なザック、無帽。
水滴混じりの髪はぺったりと額に貼り付き、心底疲れ切ったご様子。

あー、リタイヤした人ってきっとあの人だな…。
どう見ても普通ではない様子を見て、はじめてキナバルの山裾を見たとき同様軽くびびる。

6月のボルネオ島はクソ暑いはずだが、ここキナバル公園は既に標高1,600mの高地。夕方になって体感気温は15度を切っており、雨のためさらに寒く感じる。山は一般的に100m高くなれば0.6度気温が下がるとされているので、2,000m登ればそれだけで12度ダウン。頂上で風が吹けばたちまち0度くらいになるだろう。雨に濡れれば命取りだ。帽子かぶっていった方がいいな…。

さて、痛む腰を気にしつつ、公園から出て宿を探しに行く。
世界攻略者さんの旅行記にもあったTahubangロッジだ。運良くシングルが空いているとのことで、そちらに滑り込む。
荷物を置いてようやく一息。

↓左がレストランで、右がTahubangロッジ。おそらくどちらも生協のようなグループがやってる。ホントに公園ゲート目の前。
IMGP2440
IMGP2526
(画像:tabinote)

ともかく、最大の関門、登山許可をゲットした。あとは明後日の好天を祈るだけだ。

ここまで移動に次ぐ移動で息もつけなかったので、腹が減ってきた。
宿の隣の食堂に向かう。
山の方を見るとキナバル山の山頂あたりに灰色の雲が渦巻いている。低い場所の雲が晴れ、山の全容が徐々に見えてきた。でかいなー。そして時折、山頂の凶悪なギザギザが顔をのぞく。
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(画像:tabinote)


さて、前回触れた通り日帰り登山の条件は以下の通り。

・運良く滞在中に日帰り登山枠の空きがある。 ->クリア!
・天候に恵まれる ->怪しい
・高山病が出ない ->?
・体力が保って制限時間内に登れる ->?

次の懸案は天気と高山病だった。
滞在日程は決まってしまっているので、天気は運に任せるしかない。そもそもあの申し込みシステムだと確実に好天になる前日まで現地で粘るのが最善だが、今回それは日程的に無理だった。6~7月にかけてのボルネオ島は年間で最も雨が多い時期の1つ(6~7月と9~11月は月間平均雨量が250~400mmに達する)。熱帯特有の激しい雨も降るということで、はっきり言って登山には不向き。

高山病も未知だ。これまで私が行った最高地点はせいぜい2,000mレベルだし、平素高所に強い人でも突然症状が出たりすることもあるらしい。これも天候同様にどうにもならない。
急性高山病-日本登山医学会

唯一自分でコントロールできそうな条件は体力。
ロンリープラネット・ボルネオに記載のあった「日帰り登山には非常な健脚が必要」という記述だけではどのくらいの健脚なら大丈夫なのかさっぱりわからないので、具体的にどのくらいの体力が必要なのかを渡航前に見積もっておいた。

参考としたのはキナバル山を山頂まで登る鉄人レース、キナバル登山マラソン。
開催年によってコースが違うのでなかなか比較が難しいのだが、登りの距離が今回の日帰り登山と同じ2011年のレースを参照した。

(画像:myrunningescapades.blogspot.jp)

この年のレースは登りがティンポポンゲート(標高1,866m)から8.7km登って頂上まで。下りはティンポポンゲートよりさらに4kmほど下ったキナバル公園(標高約1,600m)まで。下りが4kmほど長いが登りは日帰り登山の公式コースと同じである。
覇者はイタリア人のMARCO DE GASPERI。この時の記録は登りが1時間35分、下り含むフィニッシュタイムは2時間34分。日帰り登山の登りは制限時間が5時間半だから、なんとその1/3の時間で登っている。
1時間35分というと、だいたい陸上世界記録の30km~35kmくらいのタイム。
上り下りなら2時間半だが、下りが日帰り登山のコースより4km長い点を差し引くと2時間15分くらいでスタート地点に降りてきたことになる。

つまり、世界トップアスリートが1時間35分かければ、平地なら30km~35kmくらい走れ、キナバルなら頂上まで行けるということになる。そして、2時間15分もあれば、平地なら42kmを完走し、キナバル山ならスタート地点まで降りられる…。
2011年の8位の日本人・小川壮太選手の場合フルマラソンの記録が残っているのでより参考になる。キナバルの登りが1時間58分、フルマラソンが2時間26分(大学時代の記録)。マラソンタイムから逆算すると、やはり頂上着は35km地点くらいのタイムとなる。

ここから、キナバル日帰り登山はフルマラソンくらいの体力負荷、登りだけなら35km走くらいの負荷ではなかろうかと見積もった。
体力的に問題となるのは登りだけだろう。日帰りの登り制限時間は5時間半なので、その間に35kmを走れるくらいの体力があればいいということになる。一般的な市民ランナーで、フルマラソンを4~5時間で走る人は珍しくない。まして35kmを5時間半なら1kmあたり…10分?歩くくらいのペースだ。たいしたことないじゃないかも?
推定に推定を重ねた話ではあるが、具体的な数字が見えてくると結構なんとかなるかもという感じがしてきた。

とりあえずこの日はカレーを流し込んで早めに寝る。
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(画像:tabinote)

明日はすることもないので、周辺散策でもすることにしよう。

二日目:周辺散策

金曜日。やはり朝から小雨まじりの曇り空。

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(画像:tabinote)
キナバル山頂には盛大に雲がかかっている。

この日は明日の登山に備えた待機日。
本来は休養日にあてるべきかもしれないが、ネットも遅く本も読んでしまってすぐにやることがなくなる。隣室の中国人の子供が素晴らしくしつけが効いておりうるさくて寝ることも出来ない。
外出してヒマをつぶすことにした。

キナバル公園は、登山者のベースキャンプのようなところで、植物園や散策用の山道(トレイル)を除くと何もない。
公園内には高級リゾートグループのステラが経営する快適なホテルがあり、待機組が室内で過ごしてもそれほど退屈しない設備があるのかもしれないが、公園外の安宿に泊まる私には無縁。
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(キナバル公園マップ、画像:tabinote)

宿の隣の食堂で朝食の焼きソバを食った後、公園内にあるという植物園に行くことにした。
ボルネオ島の熱帯植物やキナバル山の高原植物などが集めてあるという。
世界最大の花、ラフレシアや巨大なウツボカズラもボルネオ島の固有種とのことで、期待が高まる。

公園のゲートをくぐる。
そのうち晴れ間が出てきて、傘なしでも歩けるようになってきた。あれ、今日登った方がよかったかな?
昨日入場時に支払った15リンギット(RM)のチケットは3日間有効らしく、顔パスで通してくれた。
ゲートをくぐると公園内の地図があり、眼下にレストランが見える。キナバル山を牛耳る高級リゾート、ステラのレストランだ。白人ツーリストがちらほら見える。
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(画像:tabinote)

レストランの脇を通って遊歩道をしばらく歩くとロッジや博物館などいろいろな施設があるが、とくに時間をつぶせるような感じはない。そもそも朝なので空いてない。
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巨大なラフレシアの看板。
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(画像:tabinote)

長い階段道を上る。
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ここまで来る間にも昨日管理事務所の階段でこけ、したたかにぶつけた腰がジンジン痛む。
悪化しなければいいけど。

そして入り口へ。
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入場口、誰もいない
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(画像:tabinote)

入場料(5RM)払わなくていいの?
入っちゃうよ…?
まあ、出るとき受付係が居たら払えばいいかと思い、中へ。

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(画像:tabinote)

はっきり言って、それほど見るべきものは無かった。なんというか、適当に木が植わっているという感じ。
貴重な植物群なのかもしれないが今ひとつ目立つモノがなく、30分くらいで一周してしまった。
しばらくすると人の声…。なんと日本人!
青いHISのジャンパーを着たガイドが、初老の日本人旅行者数名を相手に解説をしている。昨日から空港周辺はおろか公園内でも全く日本人を見ていなかったので新鮮な感じ。
ガイドの話によると、大きなウツボカズラがあるとのことなので再度巡ってみたが…、枯れていた。
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仕方なく一周して入り口(兼出口)に戻ると、やはり誰も居ない
やる気なさすぎだろ!
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5RM札をカウンターに置いて出た。


植物園で全くヒマがつぶせなかった。コタ・キナバルに戻って観光してもいいが片道2時間かかる。
近場に街が無いか聞いてみると、ラナウという街が最も近いという。
ラナウについて調べてみると、パンクなモチーフで知られる木版画の工房があるという。楽しいかもしれない。
さっそく昼飯を食って(また焼きソバ)、ラナウ方面行きの乗り合いバス乗り場に向かう。
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(画像:tabinote)

ちなみに、公園と宿(Tahubangロッジ)の位置関係は以下の通り。登山口方面が植物園。
バス乗り場も宿の隣で大変便利。
キナバル公園   Google マップ
(地図:Google)

ラナウ行きの乗り合いバスはなかなか発車しない。
運転手が今すぐ行くから50RMではいかがか?と提案してきた。
相場がわからないが…、確かコタ・キナバルからの乗り合いバスは8人で20RM、ラナウまでは半分の道のりとして正規料金は10RMくらいか。8人乗りなら本来80RMは欲しいところだろう、そうすると50RMは決して法外では無いが、コタ・キナバルまで20RMで行けるのにいかにも高い。20RM以下ということで交渉し、19RMで成立。他のアジアのドライバーのようにしつこい交渉はなく、あっさりしていた。

やはり山道をガタゴトゆられてラナウ村に到着。
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(画像:tabinote)

ラナウはキナバル山を臨む街道沿いのバザールという感じ。
Wikipediaで後から見たところ人口10万人ということなので、村と呼ぶのは失礼な話なのだが、どう見ても「集落」くらいの規模。
村一番の人気スポットがケンタッキー、あとはローカル食堂やショップがメイン。
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(画像:tabinote)

日本人が訪れることはほとんど無さそうな規模であったが、この地は旧日本軍がむちゃな捕虜行軍で多数の犠牲者を出した「サンダカン死の行進」のゴール地点。追悼&記念施設もあるようだが、それは出発地のキナバル公園とラナウの間くらいにあり、ラナウの中心からは相当離れている模様だったため、訪問を断念した。

蒸し暑い中、イスラム料理屋(?)で焼きソバを食い、水を一本買って散策を開始。

・・・単なる田舎町。
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(画像:tabinote)

マレーシアやインドネシアはブラックベリーが多いらしい。
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(画像:tabinote)

ボルネオはリゾートなので、こんなバイクもある(たぶんレンタル)。
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(画像:tabinote)

散策といっても規模が小さいので、すぐに見尽くしてしまう。
強烈に小便臭いビルの2階にようやく例の版画工房を発見したが、閉まっていた…。
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(画像:tabinote)

若者は多いが、ゲームセンターかケンタッキー、カフェでスマホなど、ヒマをもてあましている連中が目につくのは日本と変わらない。特にケンタッキーは混みまくりだった。
夜中はムエタイの興業がある模様。少し興味があったが、残念ながら日程があわず断念。
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ラナウ自体は数時間ヒマがつぶせればラッキーくらいの規模なので、もし登山待機日が2~3日あったならばいっそコタ・キナバルに戻るか、サンダカンにでも向かった方がいいかもしれないと思った。

さて、陽が落ちる前に乗り合いバスでキナバル公園に戻る。

雲が増えてきた気がする。大丈夫かな…。
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(画像:tabinote)


夕飯(カレー麺)をとって宿に戻り、再度公園へ。
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(画像:tabinote)

日が落ちてラバン・ラタ小屋(標高3,273m)の明かりが見える。相変わらず雲は晴れない。
今日は小雨程度なのでなんとかあそこまでは行けただろう。明日はご来光目当ての宿泊組が早朝にアタックする。
私の出発はその後、午前7時半。
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(画像:tabinote)

もうこうなったらどんな天気だろうが登るしかない。
宿に戻って準備をすることにした。

(続く)