2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

Profile
shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

アメリカの航空界はアジアに抜かれた?

当然LCCがあると思っていた。飛行時間は1時間ほど。結ぶ都市はトロントとシカゴ。両都市とも人口は多い。
 アジアの感覚からすると、レガシーキャリアとLCCが競合する路線でもある。ビジネスマンはレガシーキャリアを使い、観光客や若者はLCC。きちんと住み分けもできるような気がした。
 トロントの宿でネットをつなぎ航空券を探した。一般的な検索サイトを調べてみる。
 LCCがない……。
 表示されるのは、ユナイテッドエクスプレス、エア・カナダ、アメリカン航空といったレガシーキャリアばかりなのだ。
 一般的な検索サイトではLCCが表示されないことがたまにある。そこでアメリカとカナダのLCCのサイトで調べてみた。
 やはりなかった。
 時期の問題もあったのかもしれないが、この路線にはLCCが入りこめないでいるようだった。レガシーキャリアが固めているのだろうか。
 しかたなくユナイテッドエクスプレスの便にした。片道3万円を超えていた。かなり高い。各社の運賃も横並びである。
 トロントのピアソン国際空港。カナダからアメリカに向かう場合は、カナダ側でアメリカの入国手続きをすることが多い。アメリカの入国審査は非効率だ。審査ブースに向かう前に、機械で登録するのだが、この機械がうまく作動しない。何回かトライすると、やっと登録が終わることが多い。しかし今回は3回目で、直接、審査ブースに行くように案内が出た。
 審査ブースでは、機械の登録がすんでいない場合は出国カードを書けといわれた。ところが出国カードが見つからない。待たされること30分。ようやく手元に出国カードが届いた。
 ターミナル内を延々と歩き、シカゴ行きユナイテッドエクスプレスの搭乗口に着いた。するとそこにいた職員はこういった。
「預ける荷物はありますか?」
「……?」
 僕はチェックインをすませていた。当然、そこで荷物を預けている。どうもカナダ人やアメリカ人は、直接、この搭乗口までくることができるらしい。
 小さな飛行機だった。40人ほどでいっぱいなる小型機。機内の案内にはEMB145と書かれていた。調べるとエンブラエルというブラジルのメーカーがつくった飛行機だった。
 通路を挟んで1席と2席。体重のバランスが悪いのか、移動させられる乗客がいた。
 シカゴにはあっという間に着いたが、なにかアジアに比べると、10年遅れた世界に映ってしかたなかった。
71
その場で荷物を預ける乗客は、自分でベルトコンベアーに乗せる

2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/07/25号 Vol.089


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

アメリカの航空界はアジアに抜かれた?

当然LCCがあると思っていた。飛行時間は1時間ほど。結ぶ都市はトロントとシカゴ。両都市とも人口は多い。
 アジアの感覚からすると、レガシーキャリアとLCCが競合する路線でもある。ビジネスマンはレガシーキャリアを使い、観光客や若者はLCC。きちんと住み分けもできるような気がした。
 トロントの宿でネットをつなぎ航空券を探した。一般的な検索サイトを調べてみる。
 LCCがない……。
 表示されるのは、ユナイテッドエクスプレス、エア・カナダ、アメリカン航空といったレガシーキャリアばかりなのだ。
 一般的な検索サイトではLCCが表示されないことがたまにある。そこでアメリカとカナダのLCCのサイトで調べてみた。
 やはりなかった。
 時期の問題もあったのかもしれないが、この路線にはLCCが入りこめないでいるようだった。レガシーキャリアが固めているのだろうか。
 しかたなくユナイテッドエクスプレスの便にした。片道3万円を超えていた。かなり高い。各社の運賃も横並びである。
 トロントのピアソン国際空港。カナダからアメリカに向かう場合は、カナダ側でアメリカの入国手続きをすることが多い。アメリカの入国審査は非効率だ。審査ブースに向かう前に、機械で登録するのだが、この機械がうまく作動しない。何回かトライすると、やっと登録が終わることが多い。しかし今回は3回目で、直接、審査ブースに行くように案内が出た。
 審査ブースでは、機械の登録がすんでいない場合は出国カードを書けといわれた。ところが出国カードが見つからない。待たされること30分。ようやく手元に出国カードが届いた。
 ターミナル内を延々と歩き、シカゴ行きユナイテッドエクスプレスの搭乗口に着いた。するとそこにいた職員はこういった。
「預ける荷物はありますか?」
「……?」
 僕はチェックインをすませていた。当然、そこで荷物を預けている。どうもカナダ人やアメリカ人は、直接、この搭乗口までくることができるらしい。
 小さな飛行機だった。40人ほどでいっぱいなる小型機。機内の案内にはEMB145と書かれていた。調べるとエンブラエルというブラジルのメーカーがつくった飛行機だった。
 通路を挟んで1席と2席。体重のバランスが悪いのか、移動させられる乗客がいた。
 シカゴにはあっという間に着いたが、なにかアジアに比べると、10年遅れた世界に映ってしかたなかった。
71
その場で荷物を預ける乗客は、自分でベルトコンベアーに乗せる