2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

Profile
プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅をしながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第6回 吉田友和

た タイ

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 この国に関しては書きたいことが山ほどあるのに、いざ書き始めようとすると一向に筆が進まない。タイである。現時点では、一番のお気に入りだと前号で紹介した。
 初めての海外旅行は世界一周だった。その世界一周で、一番最初に訪れたのがタイだった。以来、訪問回数は数え切れないほどで、バンコクをテーマに本を書いたり、ガイドブックを編集したこともある。
 タイの何が旅人を惹きつけるのだろうか。物価が安く、食事が美味しくて、気候がいい。海あり、山あり、遺跡あり、シティライフありと全方位的に旅行者を狙い撃ちできるだけの観光資源を持ち、遊ぶところは尽きない。英語の通用度は比較的高く、ホテルや交通手段、通信インフラなども整っている。ある程度の快適さが保証されつつも、適度に異国情緒や刺激も味わえる旅先。こうしてタイの魅力を列挙してみると、いいことづくめに思えてくる。
 一方で、遊びではなく、仕事で訪れると、タイのまた違った一面が垣間見られる。たとえば飲食店の取材へ行くとする。日本人的律儀さを発揮して、10分前、遅くても5分前にはお店へ到着すると、約束していた担当者が不在で拍子抜けさせられる。次のアポもあるので携帯に電話をかけてみると、「あれっ、今日でしたっけ?」とすっとぼけた声が返ってきたのには絶句させられた。
 そこまでいい加減ではなくとも、遅刻などはまったく珍しいことではない。最初のうちこそ戸惑ったが、慣れるとだんだん気にならなくなってくるのは不思議だ。というより、自分自身もすっかりタイ人化して、シビアに時計を見なくなってしまう。
 バンコクは渋滞のひどい街で、タクシーに乗っていてクルマが全然前へ進まなくなることがある。このままでは約束の時間に間に合わない……とアセアセしそうになるところだが、「まあ、そのうち着くでしょう」とドーンと構えた方が得策だったりするのだ。いまのところ、遅刻して大きな問題になったことは一度もない。自分の不真面目さを正当化するつもりはないのだが、タイにいるとつい気がゆるんでしまうのは事実だ。
 何度も行っているせいか、時には痛い目にも遭う。数年前、バンコクの空港が反政府デモに占拠され、乗る予定だった飛行機が飛ばないというアクシデントに遭遇した。空港閉鎖は思いのほか長引き、一週間近く足止めを食らってしまった。その週の日本での仕事をすべてキャンセルする羽目に陥ったのは痛恨の出来事だったが、すぐに「まあ、そのうち再開するでしょう」と諦めの境地に達した。我ながら、タイのゆるい空気に感化され過ぎているなあと苦笑する。いまだから書くと、大好きなバンコクにいられることを密かに喜んだのも正直なところである。
 マイペンライという言葉がある。大丈夫、気にするな、なんとかなるさ、といった意味の有名なタイ語の1つだ。この一言が、タイ人の楽天的な気質を見事に表しているという意見には僕は同意する。結局のところ、これこそがタイの最大の魅力なのかもしれない。日本で忙しない社会に揉まれ、人付き合いや面倒なしがらみに疲れた中でタイを訪れると、心に張り詰めていたものが霧散していく。言うなれば、リハビリの地である。そういう場所が一箇所でもあるのはやはり心強い。

※タイ→次回は「い」がつく旅の話です!


タイ
東南アジアのタイは日本との関係も親密。
巨大なスワンナブーム国際空港は東南アジア有数のハブ空港。日本からの航空便も多く、直行便なら東京から7時間程度でバンコクに到着する。経済は高成長がつづき、開発や都市化も著しく、都心では高層ビル・高級ホテルやレストラン・巨大なショッピングセンターなどが立ち並ぶ。一方で地方・郊外に出ると、農村や自然、ビーチが拡がる牧歌的な風景が残る。
街歩きや史跡めぐり、ユニークなタイフードなど魅力が多く、旅行者の人気は高い。首都バンコクは世界でもトップクラスの観光都市。
-編集部

2b. 連載:「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和  2013/09/10号 Vol.006


2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

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吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅をしながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第6回 吉田友和

た タイ

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 この国に関しては書きたいことが山ほどあるのに、いざ書き始めようとすると一向に筆が進まない。タイである。現時点では、一番のお気に入りだと前号で紹介した。
 初めての海外旅行は世界一周だった。その世界一周で、一番最初に訪れたのがタイだった。以来、訪問回数は数え切れないほどで、バンコクをテーマに本を書いたり、ガイドブックを編集したこともある。
 タイの何が旅人を惹きつけるのだろうか。物価が安く、食事が美味しくて、気候がいい。海あり、山あり、遺跡あり、シティライフありと全方位的に旅行者を狙い撃ちできるだけの観光資源を持ち、遊ぶところは尽きない。英語の通用度は比較的高く、ホテルや交通手段、通信インフラなども整っている。ある程度の快適さが保証されつつも、適度に異国情緒や刺激も味わえる旅先。こうしてタイの魅力を列挙してみると、いいことづくめに思えてくる。
 一方で、遊びではなく、仕事で訪れると、タイのまた違った一面が垣間見られる。たとえば飲食店の取材へ行くとする。日本人的律儀さを発揮して、10分前、遅くても5分前にはお店へ到着すると、約束していた担当者が不在で拍子抜けさせられる。次のアポもあるので携帯に電話をかけてみると、「あれっ、今日でしたっけ?」とすっとぼけた声が返ってきたのには絶句させられた。
 そこまでいい加減ではなくとも、遅刻などはまったく珍しいことではない。最初のうちこそ戸惑ったが、慣れるとだんだん気にならなくなってくるのは不思議だ。というより、自分自身もすっかりタイ人化して、シビアに時計を見なくなってしまう。
 バンコクは渋滞のひどい街で、タクシーに乗っていてクルマが全然前へ進まなくなることがある。このままでは約束の時間に間に合わない……とアセアセしそうになるところだが、「まあ、そのうち着くでしょう」とドーンと構えた方が得策だったりするのだ。いまのところ、遅刻して大きな問題になったことは一度もない。自分の不真面目さを正当化するつもりはないのだが、タイにいるとつい気がゆるんでしまうのは事実だ。
 何度も行っているせいか、時には痛い目にも遭う。数年前、バンコクの空港が反政府デモに占拠され、乗る予定だった飛行機が飛ばないというアクシデントに遭遇した。空港閉鎖は思いのほか長引き、一週間近く足止めを食らってしまった。その週の日本での仕事をすべてキャンセルする羽目に陥ったのは痛恨の出来事だったが、すぐに「まあ、そのうち再開するでしょう」と諦めの境地に達した。我ながら、タイのゆるい空気に感化され過ぎているなあと苦笑する。いまだから書くと、大好きなバンコクにいられることを密かに喜んだのも正直なところである。
 マイペンライという言葉がある。大丈夫、気にするな、なんとかなるさ、といった意味の有名なタイ語の1つだ。この一言が、タイ人の楽天的な気質を見事に表しているという意見には僕は同意する。結局のところ、これこそがタイの最大の魅力なのかもしれない。日本で忙しない社会に揉まれ、人付き合いや面倒なしがらみに疲れた中でタイを訪れると、心に張り詰めていたものが霧散していく。言うなれば、リハビリの地である。そういう場所が一箇所でもあるのはやはり心強い。

※タイ→次回は「い」がつく旅の話です!


タイ
東南アジアのタイは日本との関係も親密。
巨大なスワンナブーム国際空港は東南アジア有数のハブ空港。日本からの航空便も多く、直行便なら東京から7時間程度でバンコクに到着する。経済は高成長がつづき、開発や都市化も著しく、都心では高層ビル・高級ホテルやレストラン・巨大なショッピングセンターなどが立ち並ぶ。一方で地方・郊外に出ると、農村や自然、ビーチが拡がる牧歌的な風景が残る。
街歩きや史跡めぐり、ユニークなタイフードなど魅力が多く、旅行者の人気は高い。首都バンコクは世界でもトップクラスの観光都市。
-編集部