2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

Profile
プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅しながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第57回 吉田友和

か 傘

 長期滞在していた沖縄から東京へ戻ってきて、おやっと驚いたのが東京の天気の良さだった。というより、沖縄のあまりの天気の悪さに辟易としていた、と言った方が正しいかもしれない。
 沖縄といえば常夏の陽射しが降り注ぐイメージだが、実は晴天率が全国一低いのだという。とくに冬の時期は天候が安定せず、曇りがちな日々が続く。先月は宮古島に滞在していたのだが、絶望的なまでに晴れ間が望めなかった。曇り空がデフォルトという感じで、毎日本当にどんよりしていた。島に一ヶ月いて、青い空が見られたのはわずかに数日だけ、といったありさま。
 やはり長くいると、短期の旅行だけでは気がつかない部分にも目が行く。これだけ天気が悪いにもかかわらず、沖縄の人たちがあまり傘を持ち歩かないことにもカルチャーショックを受けた。たとえ雨が降っていたとしても、傘を差している人が極端に少ない。
「なぜだろう、濡れてしまうのに……」
 最初のうちこそ不思議に思ったが、自分も暮らしてみて納得がいった。理由は風である。強風がビュービュー吹き付けるから、傘なんてさしてはいられないのだ。安物のビニール傘なんて、開いて五分もしないうちに裏返しになって骨が折れてしまう。やがて馬鹿らしくなり、僕も持ち歩くのをやめた。
 よくよく考えたら、海外旅行の際にも傘はあまりささないかもしれない。いちおう持っては行くのだけれど、意外と出番が少ないアイテムの筆頭と言える。なぜだろうかと思案すると、思い当たる理由はいくつもある。
 行き先にもよるだろうが、僕がよく行くアジアの街を例に挙げると、現地の人たちがそもそも傘をさしていない。というより、持ち歩かないのだ。よく沖縄はアジアっぽいと言われるが、積極的には傘をささないライフスタイルからも、アジアらしい要素が垣間見えるのだった。
 日本のように、建物の入口などにいちいち傘立てが置かれていない国も多い。これはまあ盗難のリスクも考慮してのことなのだろうけれど。傘立てがないと、室内では雨に濡れた状態の傘を常に持って歩く必要が生じる。これが案外面倒くさいので、ならば持っていかない方がスマートだったりもする。
 旅行中の雨具としては、傘よりも防水のレインコートのほうが使い勝手がいい。できればゴアテックスの上下で、フード付きだとベストだ。いざというときには傘がなくても、これを着ればなんとかなる。田舎へ行ったり、山歩きをする際にはとくに役に立つ。
 東南アジアのたとえばバンコクなどを雨季に訪れると、必ずといっていいほど夕立に見舞われる。いわゆるスコールというやつで、雨足が激しすぎて、傘なんかさしたとしてもずぶ濡れになってしまう。
 より有効なのは雨宿りだ。傘なんかに頼らずに、屋根のある場所へ一刻も早く避難した方がいい。それこそ降り始めてからでは遅いので、雲の動きや風の強さから「そろそろ来るな」と先読みして行動する技術が求められる。現地の人たちは慣れたもので、動きが迅速だ。屋台などは降りそうな気配がした途端、瞬く間に店じまいを始めたりして、いつもしみじみ感心させられる。
 雨宿りをする場合のデメリットは、そのぶん時間が無駄になること。けれど、現地の人たちはそんなことを気にしていそうな雰囲気でもない。ただひたすらのんびり止むのを待つ。泰然自若としており、焦っても何もいいことはないとでも言いたげだ。
 これが日本だったら、時間がないから傘をさしてでも先へ進もうとする。あるいは、さらに急いでいるときはタクシーを拾ったりもする。遅れてはいけない約束があったりして仕方ないのだが、なんだか釈然としない。
 アジアの人たちはある意味、達観している。
「雨だから仕方ないよね」
 で済まされてしまう社会の方がストレスは少なそうだなあと、つい遠い目になる。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

【新刊情報】
筆者の新刊『思い立ったが絶景』(朝日新書)が3月11日に発売になりました。絶景を目的とした旅について客観的に分析し、カラー写真を交えながらエッセイにまとめました。

※傘→次回は「さ」がつく旅の話です!

2b. 連載:「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和  2016/4/5号 Vol.069


2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

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吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅しながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第57回 吉田友和

か 傘

 長期滞在していた沖縄から東京へ戻ってきて、おやっと驚いたのが東京の天気の良さだった。というより、沖縄のあまりの天気の悪さに辟易としていた、と言った方が正しいかもしれない。
 沖縄といえば常夏の陽射しが降り注ぐイメージだが、実は晴天率が全国一低いのだという。とくに冬の時期は天候が安定せず、曇りがちな日々が続く。先月は宮古島に滞在していたのだが、絶望的なまでに晴れ間が望めなかった。曇り空がデフォルトという感じで、毎日本当にどんよりしていた。島に一ヶ月いて、青い空が見られたのはわずかに数日だけ、といったありさま。
 やはり長くいると、短期の旅行だけでは気がつかない部分にも目が行く。これだけ天気が悪いにもかかわらず、沖縄の人たちがあまり傘を持ち歩かないことにもカルチャーショックを受けた。たとえ雨が降っていたとしても、傘を差している人が極端に少ない。
「なぜだろう、濡れてしまうのに……」
 最初のうちこそ不思議に思ったが、自分も暮らしてみて納得がいった。理由は風である。強風がビュービュー吹き付けるから、傘なんてさしてはいられないのだ。安物のビニール傘なんて、開いて五分もしないうちに裏返しになって骨が折れてしまう。やがて馬鹿らしくなり、僕も持ち歩くのをやめた。
 よくよく考えたら、海外旅行の際にも傘はあまりささないかもしれない。いちおう持っては行くのだけれど、意外と出番が少ないアイテムの筆頭と言える。なぜだろうかと思案すると、思い当たる理由はいくつもある。
 行き先にもよるだろうが、僕がよく行くアジアの街を例に挙げると、現地の人たちがそもそも傘をさしていない。というより、持ち歩かないのだ。よく沖縄はアジアっぽいと言われるが、積極的には傘をささないライフスタイルからも、アジアらしい要素が垣間見えるのだった。
 日本のように、建物の入口などにいちいち傘立てが置かれていない国も多い。これはまあ盗難のリスクも考慮してのことなのだろうけれど。傘立てがないと、室内では雨に濡れた状態の傘を常に持って歩く必要が生じる。これが案外面倒くさいので、ならば持っていかない方がスマートだったりもする。
 旅行中の雨具としては、傘よりも防水のレインコートのほうが使い勝手がいい。できればゴアテックスの上下で、フード付きだとベストだ。いざというときには傘がなくても、これを着ればなんとかなる。田舎へ行ったり、山歩きをする際にはとくに役に立つ。
 東南アジアのたとえばバンコクなどを雨季に訪れると、必ずといっていいほど夕立に見舞われる。いわゆるスコールというやつで、雨足が激しすぎて、傘なんかさしたとしてもずぶ濡れになってしまう。
 より有効なのは雨宿りだ。傘なんかに頼らずに、屋根のある場所へ一刻も早く避難した方がいい。それこそ降り始めてからでは遅いので、雲の動きや風の強さから「そろそろ来るな」と先読みして行動する技術が求められる。現地の人たちは慣れたもので、動きが迅速だ。屋台などは降りそうな気配がした途端、瞬く間に店じまいを始めたりして、いつもしみじみ感心させられる。
 雨宿りをする場合のデメリットは、そのぶん時間が無駄になること。けれど、現地の人たちはそんなことを気にしていそうな雰囲気でもない。ただひたすらのんびり止むのを待つ。泰然自若としており、焦っても何もいいことはないとでも言いたげだ。
 これが日本だったら、時間がないから傘をさしてでも先へ進もうとする。あるいは、さらに急いでいるときはタクシーを拾ったりもする。遅れてはいけない約束があったりして仕方ないのだが、なんだか釈然としない。
 アジアの人たちはある意味、達観している。
「雨だから仕方ないよね」
 で済まされてしまう社会の方がストレスは少なそうだなあと、つい遠い目になる。

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【新刊情報】
筆者の新刊『思い立ったが絶景』(朝日新書)が3月11日に発売になりました。絶景を目的とした旅について客観的に分析し、カラー写真を交えながらエッセイにまとめました。

※傘→次回は「さ」がつく旅の話です!