2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

Profile
プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅しながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第49回 吉田友和

ざ 戯れ言

 連載ペースが今回から月イチへと変わり、楽になったと余裕をかましていたのだが、気がついたらいつの間にか締め切り直前で焦っている。明日から新学期という切羽詰まった段階になって、大慌てで夏休みの宿題に手を付けた懐かしき日々が頭をよぎる。まるで成長していない我が身が恨めしい。
 お題が「ざ」ということで、実は座席指定を取り上げるつもりでいたのだが、ここまで書いたところで気が変わった。この際もう開き直って、怠け者の戯れ言でも綴ってみようかなと。これもまた「ざ」だし。
 明日から一泊で山梨へ出かける。取材ではなく、プライベートの旅行である。その準備をまったくしていないことを思い出し、さらに気持ちが逸るのだが、いつものことだ。別に行き先が山梨だから、というわけではない。旅の準備は大の苦手で、たとえ海外旅行だとしても、出発間際になってあわあわとパッキングを始めるタイプなのだ。いやはや、何の自慢にもならないなあ。
 ところが、インタビューなどでこの話をすると、なぜか相手は好意的に解釈してくれることが多い。
「さすがですねえ。忘れ物をしても、現地調達すればいいですしねえ」
 何がさすがなのか分からないが、「ええまあ」などと曖昧に頷きつつ、相手が触れた現地調達にしれっと話題を切り替えるのがよくあるパターン。そんな我が戯言を、みんなきちんとした記事にまとめてくれるので、いつも本当に感心させられる。あ、いまのは「たわごと」と打って、「戯言」に変換したものね。送り仮名が付く付かないの違いはあるものの、「ざれごと=戯れ言」と漢字がまったく同じではないか。意味も似ているしなあ。まあ、どちらでもいいか。
 なんでこんな話になったのかというと、今週は連日インタビュー仕事が続いたのだ。
 最初に訪ねてきたのは某私立大学の新聞部の学生さんたちだった。学生新聞の取材である。イマドキのいわゆる「意識高い系」だったらどうしよう……と内心身構えていたのだが、会ってみると普通に素直な子たちで安心した。といっても、自分は初海外が社会人になってからなので、あまり偉そうなことは言えない。大学生向けということで怠惰な発言は極力控えつつ、インドでの馬鹿話などを披露したのだった。十ルピーで乗ったリキシャーに十ドル払わされそうになったとか、猿に洗濯物をかっぱらわれたとか、そういった我ながらくだらない話だ。まさに戯れ言ばかりという感じだから、記事にまとめるのに苦労をかけそうで申し訳ない気持ちになる。
 続いて、某クレジットカードの会報誌のインタビューがあった。前述した現地調達の話はこのときに出たもので、ほかにもそういった旅のテクニック論のようなテーマが主体だったのだが、とくに旅におけるネット活用について語った内容は、いい機会なのでここでも少し紹介していいだろう。
 現地に着いたらプリペイドSIMを入手して、SIMフリースマホでネット接続する。滞在中も常時オンラインならば、旅が快適で便利になる――僕はこれまでそういったスタイルを礼讃してきた。だからなのか、インタビューではあえて積極的にその種の話題を振ってくれた。ところが、僕は反旗を翻すような発言をして、相手を困らせたのである。
 最近は以前ほどスマホやネットのありがたみを感じなくなっている。ありがたみ、というより新鮮味と言った方がいいかもしれない。旅先でもネットに繋がるなんていまや当たり前のことで、目新しさはなくなった。あらゆる旅の情報はネットから得られるし、ガイドブックの電子化もいよいよ進んでいる。アジアの市場へ行ったら、野菜を売るおばちゃんがiPadでゲームに興じながら時間つぶしをしている時代だ。スマホの普及によりモバイルでのネット活用が進んだことで、旅を取り巻く環境はガラリと変わったわけだが、それを画期的なトピックスとして語る時期はもうとっくの昔に過ぎている。
 もちろんいまでもネットに頼って旅をしていることに変わりないが、付き合い方はだいぶドライになった。利用するシーンは予約や調べ物といった必要最低限のものばかりだ。とくにSNSへの依存度は自分でも驚くほど下がった実感がある。かつては旅行中であろうが四六時中タイムラインを追いかけ、自らも何を観て、何を食べたかなどを逐一発信していたのだが……。近頃はSNSなんて気が向いたときぐらいしかチェックしない。
 ネットに繋がると、つい画面とばかり向き合ってしまう。せっかく旅に出ているのに、それももったいないよなあという当たり前の事実に、いまさらながら気がついたのだ。
 そういえば日記を書いたり、ブログなどで情報発信する機会もめっきり減った。ツイッターに至ってはもう何年も放置している。飽きっぽい性格なのに加え、怠け者なので締め切りのない原稿を書くモチベーションを維持できないのだ。代わりに、いまではこの連載がある意味それらを兼ねる存在となっている。日記のような、ブログのような、つぶきやきのようなエッセイ。実際、日常で起こった出来事を中心に、思いつくがまま書き殴っているだけだ。今回のテーマに限らず、この連載そのものが戯れ言なのかもしれないなあ。

【新刊情報】
筆者の新刊『週末台北のち台湾一周、ときどき小籠包』(幻冬舎文庫)が発売になりました。いつもの週末海外に加え、ぐるりと台湾を一周した最新旅行記です。

※戯れ言→次回は「と」がつく旅の話です!

2b. 連載:「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和  2015/7/28号 Vol.052


2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

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吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅しながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第49回 吉田友和

ざ 戯れ言

 連載ペースが今回から月イチへと変わり、楽になったと余裕をかましていたのだが、気がついたらいつの間にか締め切り直前で焦っている。明日から新学期という切羽詰まった段階になって、大慌てで夏休みの宿題に手を付けた懐かしき日々が頭をよぎる。まるで成長していない我が身が恨めしい。
 お題が「ざ」ということで、実は座席指定を取り上げるつもりでいたのだが、ここまで書いたところで気が変わった。この際もう開き直って、怠け者の戯れ言でも綴ってみようかなと。これもまた「ざ」だし。
 明日から一泊で山梨へ出かける。取材ではなく、プライベートの旅行である。その準備をまったくしていないことを思い出し、さらに気持ちが逸るのだが、いつものことだ。別に行き先が山梨だから、というわけではない。旅の準備は大の苦手で、たとえ海外旅行だとしても、出発間際になってあわあわとパッキングを始めるタイプなのだ。いやはや、何の自慢にもならないなあ。
 ところが、インタビューなどでこの話をすると、なぜか相手は好意的に解釈してくれることが多い。
「さすがですねえ。忘れ物をしても、現地調達すればいいですしねえ」
 何がさすがなのか分からないが、「ええまあ」などと曖昧に頷きつつ、相手が触れた現地調達にしれっと話題を切り替えるのがよくあるパターン。そんな我が戯言を、みんなきちんとした記事にまとめてくれるので、いつも本当に感心させられる。あ、いまのは「たわごと」と打って、「戯言」に変換したものね。送り仮名が付く付かないの違いはあるものの、「ざれごと=戯れ言」と漢字がまったく同じではないか。意味も似ているしなあ。まあ、どちらでもいいか。
 なんでこんな話になったのかというと、今週は連日インタビュー仕事が続いたのだ。
 最初に訪ねてきたのは某私立大学の新聞部の学生さんたちだった。学生新聞の取材である。イマドキのいわゆる「意識高い系」だったらどうしよう……と内心身構えていたのだが、会ってみると普通に素直な子たちで安心した。といっても、自分は初海外が社会人になってからなので、あまり偉そうなことは言えない。大学生向けということで怠惰な発言は極力控えつつ、インドでの馬鹿話などを披露したのだった。十ルピーで乗ったリキシャーに十ドル払わされそうになったとか、猿に洗濯物をかっぱらわれたとか、そういった我ながらくだらない話だ。まさに戯れ言ばかりという感じだから、記事にまとめるのに苦労をかけそうで申し訳ない気持ちになる。
 続いて、某クレジットカードの会報誌のインタビューがあった。前述した現地調達の話はこのときに出たもので、ほかにもそういった旅のテクニック論のようなテーマが主体だったのだが、とくに旅におけるネット活用について語った内容は、いい機会なのでここでも少し紹介していいだろう。
 現地に着いたらプリペイドSIMを入手して、SIMフリースマホでネット接続する。滞在中も常時オンラインならば、旅が快適で便利になる――僕はこれまでそういったスタイルを礼讃してきた。だからなのか、インタビューではあえて積極的にその種の話題を振ってくれた。ところが、僕は反旗を翻すような発言をして、相手を困らせたのである。
 最近は以前ほどスマホやネットのありがたみを感じなくなっている。ありがたみ、というより新鮮味と言った方がいいかもしれない。旅先でもネットに繋がるなんていまや当たり前のことで、目新しさはなくなった。あらゆる旅の情報はネットから得られるし、ガイドブックの電子化もいよいよ進んでいる。アジアの市場へ行ったら、野菜を売るおばちゃんがiPadでゲームに興じながら時間つぶしをしている時代だ。スマホの普及によりモバイルでのネット活用が進んだことで、旅を取り巻く環境はガラリと変わったわけだが、それを画期的なトピックスとして語る時期はもうとっくの昔に過ぎている。
 もちろんいまでもネットに頼って旅をしていることに変わりないが、付き合い方はだいぶドライになった。利用するシーンは予約や調べ物といった必要最低限のものばかりだ。とくにSNSへの依存度は自分でも驚くほど下がった実感がある。かつては旅行中であろうが四六時中タイムラインを追いかけ、自らも何を観て、何を食べたかなどを逐一発信していたのだが……。近頃はSNSなんて気が向いたときぐらいしかチェックしない。
 ネットに繋がると、つい画面とばかり向き合ってしまう。せっかく旅に出ているのに、それももったいないよなあという当たり前の事実に、いまさらながら気がついたのだ。
 そういえば日記を書いたり、ブログなどで情報発信する機会もめっきり減った。ツイッターに至ってはもう何年も放置している。飽きっぽい性格なのに加え、怠け者なので締め切りのない原稿を書くモチベーションを維持できないのだ。代わりに、いまではこの連載がある意味それらを兼ねる存在となっている。日記のような、ブログのような、つぶきやきのようなエッセイ。実際、日常で起こった出来事を中心に、思いつくがまま書き殴っているだけだ。今回のテーマに限らず、この連載そのものが戯れ言なのかもしれないなあ。

【新刊情報】
筆者の新刊『週末台北のち台湾一周、ときどき小籠包』(幻冬舎文庫)が発売になりました。いつもの週末海外に加え、ぐるりと台湾を一周した最新旅行記です。

※戯れ言→次回は「と」がつく旅の話です!