2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

Profile
プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅をしながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第一回 吉田友和

あ 奄美大島[あまみおおしま]

「雨」にするつもりだったが、そろそろ梅雨も明けそうだし、もう少しスカッとしたテーマの方がよいだろうと思い直した。「アメリカ」も広く一般受けしそうだが、僕が書くと悪口ばかりになりそうなので却下した。
 しりとりである。「あ」から始めるのが気分だろう。最初の言葉を何にしようかと思案していたちょうどその頃、たまたま奄美大島を旅する機会があった。
 奄美大島、あまみおおしま……あ、から始まるではないか! 我ながら単純な思考で気恥ずかしい。でも、これも何かの縁だろうと記念すべき第一回目のキーワードとすることにした。
 ちなみに初回なので軽く説明しておくと、当連載ではしりとり形式にて旅にまつわるキーワードをピックアップし、ゆるゆるとエッセイを綴っていく。小難しいことは抜きにして、その時々の気分と勢いで進めていければと思う。
 さて奄美大島の話だが、まずは魅力から書くと自然の豊かな島である。我が家では毎年夏になると日本の離島をちょくちょく旅する。そのせいでつい比較の目で見てしまうのだが、これまで訪れた多くの離島と比べても図抜けて自然味あふれる島だと感じた。リゾート気分に浸れる青すぎる海が広がる一方で、地形はずいぶんと山がちだ。標高の最も高いところで700メートル近くもある。山に分け入ると、手つかずの原生林が続いている。遠い昔に中国大陸と地続きだった亜熱帯の島ならではの動植物は、本州では見られない珍しいものばかりで好奇心がビンビン刺激された。
 アップダウンの激しい山道をレンタカーで走っていると、不思議な絵柄の交通標識が現れる。動物注意のそれに描かれているのは、なんとウサギである。島には絶滅危惧種に指定されているクロウサギが生息している。普通のウサギより耳が小さく短足なクロウサギが気になったが、夜行性のため簡単にはお目にかかれない。日が暮れてから山を散策するには、ハブの危険などもあるという。
 ハブといえば、思い出すのは沖縄だ。地図で見ると、奄美諸島からは鹿児島本土よりも沖縄本島の方が近い。個人的に沖縄はそれなりに馴染み深いのだが、奄美へ来たのは初めてだった。椰子の木やソテツが生い茂った景色は南国そのもので、沖縄を旅しているような錯覚もする。大和と琉球の二つの文化が混じり合い、独自の発達を遂げた島なのだろうか。離島へ行くとその異文化度合いに目を見張りがちだが、奄美のそれはとりわけ旅人に強烈な印象を与えるのだった。
 たとえば興味深いのが食文化。島らっきょうや島豆腐をつまみつつ、メインは豚肉が出てくる。そう聞くとまさに沖縄料理のようだが、味付けはアッサリしており調理法も和食という感じだ。絶品なのが「塩豚」で、僕が訪れた店では、おでんのような装いでジャガイモなどと一緒に出てきた。沖縄料理で言うところのラフテーのような存在感を放つ料理だが、明らかに別物なのが興味深い。
 そんなつまみ類を囲みつつ、島の人たちが好んで飲むのは――泡盛ではない。黒糖焼酎である。サトウキビを原料とするこのお酒は、日本国内で奄美だけが製造を許可されている。まさに特産品と言えよう。ロックではなく水割りでちょびちょび飲むのが流儀だと聞いて、真似してちょびちょびやってみたのだが、変なクセもなくスッキリとした口当たりで、むしろピッチが早くなってしまった。
 そうこうしているうちに、三味線の生演奏が始まったりして、奏でられるポロロンという音色にまったりウットリする。沖縄では三線と呼ぶが、奄美では三味線と本州同様の言い方をするのだそうだ。島唄の耳慣れない言葉に重ねて異国情緒を覚える夜が尊いものに思えてくる。
 沖縄へ行くと、「アジアだなあ」という感想を抱く人は少なくないだろう。雑然とした街並みや、ゆるりとした空気に触れ、僕もタイあたりと重ね合わせて見てしまうことがよくある。その意味でも、奄美はもう少し日本的である。市街地へ出ると、昔ながらの商店や飲み屋が軒を連ね、どこか昭和っぽいいなたさが漂う。それでいて、典型的な日本の地方都市とも一味違う。島の規模の割には意外なことにマクドナルドはないし、ユニクロもない。コンビニも全国チェーンの有名店は見かけない。八百屋を覗くと瓜やパッションフルーツなどが地べたに積まれていたりもする。知っているようで知らない光景。日本にもまだまだ面白いところはたくさんあるのだなあと痛感させられたのだった。

※あまみおおしま→次回は「ま」がつく旅の話です!


奄美大島
鹿児島県の南、東経129度・北緯28度に位置する。人口は6万人弱で面積は佐渡島に次ぐ規模。美しいビーチとマングローブ林でおなじみ。飛行機なら羽田・関空から2時間、福岡からで90分程度。鹿児島からなら飛行機で1時間もしくはフェリーで11時間程度。
(編集部)

2b. 連載:「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和  2013/07/02号 Vol.001


2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

Profile
プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅をしながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第一回 吉田友和

あ 奄美大島[あまみおおしま]

「雨」にするつもりだったが、そろそろ梅雨も明けそうだし、もう少しスカッとしたテーマの方がよいだろうと思い直した。「アメリカ」も広く一般受けしそうだが、僕が書くと悪口ばかりになりそうなので却下した。
 しりとりである。「あ」から始めるのが気分だろう。最初の言葉を何にしようかと思案していたちょうどその頃、たまたま奄美大島を旅する機会があった。
 奄美大島、あまみおおしま……あ、から始まるではないか! 我ながら単純な思考で気恥ずかしい。でも、これも何かの縁だろうと記念すべき第一回目のキーワードとすることにした。
 ちなみに初回なので軽く説明しておくと、当連載ではしりとり形式にて旅にまつわるキーワードをピックアップし、ゆるゆるとエッセイを綴っていく。小難しいことは抜きにして、その時々の気分と勢いで進めていければと思う。
 さて奄美大島の話だが、まずは魅力から書くと自然の豊かな島である。我が家では毎年夏になると日本の離島をちょくちょく旅する。そのせいでつい比較の目で見てしまうのだが、これまで訪れた多くの離島と比べても図抜けて自然味あふれる島だと感じた。リゾート気分に浸れる青すぎる海が広がる一方で、地形はずいぶんと山がちだ。標高の最も高いところで700メートル近くもある。山に分け入ると、手つかずの原生林が続いている。遠い昔に中国大陸と地続きだった亜熱帯の島ならではの動植物は、本州では見られない珍しいものばかりで好奇心がビンビン刺激された。
 アップダウンの激しい山道をレンタカーで走っていると、不思議な絵柄の交通標識が現れる。動物注意のそれに描かれているのは、なんとウサギである。島には絶滅危惧種に指定されているクロウサギが生息している。普通のウサギより耳が小さく短足なクロウサギが気になったが、夜行性のため簡単にはお目にかかれない。日が暮れてから山を散策するには、ハブの危険などもあるという。
 ハブといえば、思い出すのは沖縄だ。地図で見ると、奄美諸島からは鹿児島本土よりも沖縄本島の方が近い。個人的に沖縄はそれなりに馴染み深いのだが、奄美へ来たのは初めてだった。椰子の木やソテツが生い茂った景色は南国そのもので、沖縄を旅しているような錯覚もする。大和と琉球の二つの文化が混じり合い、独自の発達を遂げた島なのだろうか。離島へ行くとその異文化度合いに目を見張りがちだが、奄美のそれはとりわけ旅人に強烈な印象を与えるのだった。
 たとえば興味深いのが食文化。島らっきょうや島豆腐をつまみつつ、メインは豚肉が出てくる。そう聞くとまさに沖縄料理のようだが、味付けはアッサリしており調理法も和食という感じだ。絶品なのが「塩豚」で、僕が訪れた店では、おでんのような装いでジャガイモなどと一緒に出てきた。沖縄料理で言うところのラフテーのような存在感を放つ料理だが、明らかに別物なのが興味深い。
 そんなつまみ類を囲みつつ、島の人たちが好んで飲むのは――泡盛ではない。黒糖焼酎である。サトウキビを原料とするこのお酒は、日本国内で奄美だけが製造を許可されている。まさに特産品と言えよう。ロックではなく水割りでちょびちょび飲むのが流儀だと聞いて、真似してちょびちょびやってみたのだが、変なクセもなくスッキリとした口当たりで、むしろピッチが早くなってしまった。
 そうこうしているうちに、三味線の生演奏が始まったりして、奏でられるポロロンという音色にまったりウットリする。沖縄では三線と呼ぶが、奄美では三味線と本州同様の言い方をするのだそうだ。島唄の耳慣れない言葉に重ねて異国情緒を覚える夜が尊いものに思えてくる。
 沖縄へ行くと、「アジアだなあ」という感想を抱く人は少なくないだろう。雑然とした街並みや、ゆるりとした空気に触れ、僕もタイあたりと重ね合わせて見てしまうことがよくある。その意味でも、奄美はもう少し日本的である。市街地へ出ると、昔ながらの商店や飲み屋が軒を連ね、どこか昭和っぽいいなたさが漂う。それでいて、典型的な日本の地方都市とも一味違う。島の規模の割には意外なことにマクドナルドはないし、ユニクロもない。コンビニも全国チェーンの有名店は見かけない。八百屋を覗くと瓜やパッションフルーツなどが地べたに積まれていたりもする。知っているようで知らない光景。日本にもまだまだ面白いところはたくさんあるのだなあと痛感させられたのだった。

※あまみおおしま→次回は「ま」がつく旅の話です!


奄美大島
鹿児島県の南、東経129度・北緯28度に位置する。人口は6万人弱で面積は佐渡島に次ぐ規模。美しいビーチとマングローブ林でおなじみ。飛行機なら羽田・関空から2時間、福岡からで90分程度。鹿児島からなら飛行機で1時間もしくはフェリーで11時間程度。
(編集部)