カテゴリー別アーカイブ: 2a.連載:下川裕治

2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/10/24号 Vol.092


2. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

機内持ち込み荷物の不公平

 エアアジアの羽田―クアラルンプール線にはじめて乗った。インドネシアのメダンに用事があり、乗り継ぎや運賃を考えると、エアアジアが最適だった。
 日本に絡んだLCCの世界では知られた路線である。日本のLCCは、この路線にエアアジアが就航してから本格化していった。バックパッカーたちの間では、この便が到着したLCCTというLCC専用ターミナルは母港とまで呼ばれた。ここからアジアのさまざまな都市に乗り継いでいった。LCCTは閉鎖されてしまったが。
 なぜかこの路線に乗る機会がなかった。そうこうしているうちに、レガシーキャリアが運賃をさげはじめた。となると、レガシーキャリアを選んでしまう。ますます乗る機会を逸してしまった
 LCCにはグレーゾーンがある。機内もち込み荷物の重さと数である。預ける荷物が有料だから、どうしても機内もち込みが増える。これに対してどのくらい厳しくチェックするかという面では、LCCによって温度差がある。
 羽田空港のチェックインの列に並んだ。掲示板に、もち込み荷物のルールが変わったと表示されていた。これまでの経験から、「まあ、なんとかなるだろう」とカウンターの前へ。すると、もち込み荷物の重さを測るという。重量計に乗せると、10.3キロ……。
「免税品は一切買わないでください」
 そういわれてチェックインは終わった。
 調べてみると、ルールは変わっていた。もち込み荷物の個数は大小2個まで。これは変わらない。以前は大きい荷物の重さが7キロまでとなっていたが、新ルールでは、大小合わせて7キロに変わっていたのだ。
 僕は3キロ以上オーバーしていたが、見逃してくれたらしい。一応、免税品は買うな……と釘は刺されたが。
 このときは同行者がいた。ところが彼は、なんのチェックもされなかった。チェックインカウンターによって違うのだ。
 搭乗口では免税品の袋を注意されている人もいた。免税品の袋を2個、3個ともっていた女性たちは、ひとつにまとめるようにいわれていた。
 その後、エアアジアに乗ったが、これほど注意されたことはなかった。どうも厳しくチェックするのは、長距離を飛ぶエアアジアXという気もするが。
 チェックを受けてもなんの文句もいえないが、もう少し明瞭にしてほしいとは思う。抜き打ちチェックでルールの浸透を狙っているのだろうか。


チェックインカウンターのチェックに引っかからないことを願う?

2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/09/26号 Vol.091


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

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下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

福岡修行を経験した

 日本とバンコク間の航空券は、基本的にバンコクを起点に買っている。かつて、航空券は買う場所によって料金が違った。しかしインターネットが発達し、その意味はあまりなくなってしまった。だからバンコクで航空券を買うことに深い意味はない。
 いつも同じ旅行会社で買っている。その担当者からこういわれた。
「スターアライアンスのマイルを貯めているなら、福岡修行をしなきゃだめですよ。出張組で福岡をまわるルートにしてくれって人、多いですよ」
 世界のレガシーキャリアには、いくつかのグループ、つまりアライアンスがある。そのグループ内の航空会社はマイルを共有している。
 僕はユナイテッド航空のカードにマイルを貯めている。バンコクと東京の間は、同じスターアライアンスの全日空に乗ることが多い。同じアライアンスのなかでは全日空は運賃が安いからだ。
 バンコクと東京間の単純往復する運賃に3000円ほど加えると、バンコクー成田―福岡―羽田というルートの航空券を買うことができる。これに乗ると、バンコクと成田を単純往復のマイル数に1700マイルほどが加算される。ずいぶん得なのだという。
 成田―福岡―羽田のフライトはただマイルを貯めるだけが目的。つまり福岡修行なのだ。成田から羽田まで福岡経由でいくという考え方もあるが……。
「そこまでやらないといけないですか」
「マイルを貯めるならね」
 朝7時にバンコクを発つ成田行きに乗った。もともとユナイテッド航空が飛んでいたスケジュールを全日空が受け継いだ便だ。アメリカ方面への接続がいい。体の大きく、無駄に明るい彼らに囲まれたフライトになる。
 成田空港──。入国審査をすませ、福岡行きにチェックインをする。
「福岡から乗り継ぎはございますか?」
「えッ。まあ……」
 予約画面を見ていたスタッフがこういう。
「羽田行きに……」
 マイルを貯める修行です、といおうかと思った。しかしなんとなく気恥ずかしい。事情がわかっているのかもしれないが、スタッフは淡々と処理を進める。
 マイルを貯めようとするビジネスマンたちは、毎回、これを繰り返しているのだろうか。
 やはり修行である。
 バンコクからの便は午後3時には成田に着いた。しかし福岡修行を終えて羽田に着いたのは夜の11時。
 やはり修行である。


成田空港の福岡行き搭乗口。修行のはじまり

2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/08/22号 Vol.090


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

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下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

那覇空港がLCCのハブという流れ

 LCCの那覇空港ハブ化が進んでいる。現在、ピーチ・アビエーションは、那覇空港から、台北、香港、ソウル、バンコク路線に就航している。それぞれ1日1便、台北路線は1日2便体制だ。ピーチ・アビエーションが好調なのだろうか。ジェットスター・ジャパンも那覇―シンガポール路線の就航を発表した。
 7月にバンコクから那覇までピーチ・アビエーションに乗った。那覇には朝着くが、出発は午前1時台という、ややつらい時刻。所要時間は4時間半ほど。LCCだから食事のサービスもないから、まあ寝てしまえば……というスケジュールである。
 しかし安い。僕は直前に買ったので7000円ほどだったが、もっと早く予約を入れれば4000円台になるらしい。もっとも就航のキャンペーンがまだ続いているのかもしれない。今後は1万円ぐらいに落ち着くかもしれないが。
 その便の乗客は152人だった。全座席数は180。集客率は80%を超えていた。乗ってみてわかったが、乗客の8割はタイ人だった。残りの1割が欧米人、そして1割が日本人。つまり日本にやってくるタイ人のための便という感がある。
 隣に座っていたタイ人に訊いてみた。
「那覇で乗り換えて大阪まで行きます。家族5人の日本旅行です。航空券代? 正確に覚えていないけど、たぶん往復で7000バーツぐらい。娘がとってくれました。安くて助かります」
 7000バーツは日本円に換算すると2万3000円ほど。キャンペーンをうまく使ったのかもしれないが、LCCの大阪直行便より安い。
 那覇空港で見ていると、タイ人の多くが、那覇での乗り換えだった。那覇空港をハブ的に使っているのだ。
 那覇空港のハブ化には伏線がある。全日空が貨物のハブ空港に使っているのだ。那覇は東アジアからなら2時間ほどの距離。ここで荷物を積み替えるわけだ。
 日本のLCCもこの応用である。最大の利点は、これまで国内線で使っていた機材をそのまま使えることだ。ピーチ・アビエーションが国内線で使っているのはエアバスA320。中型機である。長距離飛行はできないが、バンコクまで4時間半なら運航できる。
 機材の統一は、LCCにとって経費の節減につながる。アジアのLCCであるエアアジアやスクートが大型機を導入し、長距離路線に進出しているが、日本路線などでは苦戦している。それを計算にいれた那覇のハブ化という計画が読み取れる。
 今後、乗り換えというデメリットを超えるほどの運賃を提示できるか、どうか。鍵を握るのは集客率ということだろうか。


那覇空港では写真撮影は禁止。徒歩でターミナルに行くが風が強く、トラブルの原因になるためだとか

2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/07/25号 Vol.089


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

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下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

アメリカの航空界はアジアに抜かれた?

当然LCCがあると思っていた。飛行時間は1時間ほど。結ぶ都市はトロントとシカゴ。両都市とも人口は多い。
 アジアの感覚からすると、レガシーキャリアとLCCが競合する路線でもある。ビジネスマンはレガシーキャリアを使い、観光客や若者はLCC。きちんと住み分けもできるような気がした。
 トロントの宿でネットをつなぎ航空券を探した。一般的な検索サイトを調べてみる。
 LCCがない……。
 表示されるのは、ユナイテッドエクスプレス、エア・カナダ、アメリカン航空といったレガシーキャリアばかりなのだ。
 一般的な検索サイトではLCCが表示されないことがたまにある。そこでアメリカとカナダのLCCのサイトで調べてみた。
 やはりなかった。
 時期の問題もあったのかもしれないが、この路線にはLCCが入りこめないでいるようだった。レガシーキャリアが固めているのだろうか。
 しかたなくユナイテッドエクスプレスの便にした。片道3万円を超えていた。かなり高い。各社の運賃も横並びである。
 トロントのピアソン国際空港。カナダからアメリカに向かう場合は、カナダ側でアメリカの入国手続きをすることが多い。アメリカの入国審査は非効率だ。審査ブースに向かう前に、機械で登録するのだが、この機械がうまく作動しない。何回かトライすると、やっと登録が終わることが多い。しかし今回は3回目で、直接、審査ブースに行くように案内が出た。
 審査ブースでは、機械の登録がすんでいない場合は出国カードを書けといわれた。ところが出国カードが見つからない。待たされること30分。ようやく手元に出国カードが届いた。
 ターミナル内を延々と歩き、シカゴ行きユナイテッドエクスプレスの搭乗口に着いた。するとそこにいた職員はこういった。
「預ける荷物はありますか?」
「……?」
 僕はチェックインをすませていた。当然、そこで荷物を預けている。どうもカナダ人やアメリカ人は、直接、この搭乗口までくることができるらしい。
 小さな飛行機だった。40人ほどでいっぱいなる小型機。機内の案内にはEMB145と書かれていた。調べるとエンブラエルというブラジルのメーカーがつくった飛行機だった。
 通路を挟んで1席と2席。体重のバランスが悪いのか、移動させられる乗客がいた。
 シカゴにはあっという間に着いたが、なにかアジアに比べると、10年遅れた世界に映ってしかたなかった。
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その場で荷物を預ける乗客は、自分でベルトコンベアーに乗せる

2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/06/20号 Vol.088


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

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たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

キャセイパシフィック航空の安定感

月に1回のペースでバンコクを往復している。利用する航空会社はさまざまだ。LCCグループ、直行便グループ、経由便グループに大別できるだろうか。その都度、安い航空会社を選ぶことが基本だ。
 6月はキャセイパシフィック航空を使った。安かったからだ。
 経由便にも何社かがあるが、キャセイパシフィックに使うとわかると、やはりほッとする。飛行機に乗るというストレスがぐっと減る気がする。
 経由便には、キャセイパシフィック航空のほかに、台湾のチャイナエアライン、ベトナム航空、中国東方航空、香港の香港航空などがある。そのなかでは、キャセイパシフィック航空に圧倒的な安定感がある。それは直行便のタイ国際航空や日系2社をもしのぐ気がする。
 便数が多いという面が大きいのだろうが、なにかのトラブルが起きても、どこか慌てない気風があるように思う。それが経験なのかもしれないが
 チャイナエアラインは、ヨーロッパからの便にバンコクから乗ることがある。遅れが起きると、スタッフは動揺する。足どりが落ち着かない。キャセイパシフィック航空はインドからの便を利用することもある。やはり遅れなどのトラブルはあるのだが、スタッフはどんと構えている。慌てないのだ。
 バンコクの空港で体験することだから、スタッフの多くはタイ人である。香港のスタッフではない。それなのに彼らは動揺しない。
 今回もチェックインをすませ、搭乗待合室にいた乗客が体調を壊し、搭乗をとりやめることになった。この処理はなかなか大変だと思う。手続きの問題もあるが、預けた荷物をとり出さなくてはならない。出発直前だったから当然、遅れにつながる。
 しかしスタッフたちは慌てない。案内放送も落ち着いている。30分ほど遅れて離陸したが、その遅れは、香港の空港の乗り継ぎで簡単に吸収してしまった。
 最近のアジアの大空港はどこも混み合っている。バンコク、香港、台北、ソウル、羽田、成田、上海、北京……。出発時に遅れることが多い。「空港混雑のため」という機内放送を聞くことは多い。とくに上海と北京は恒常的に遅れる。
 各社とも苦労しているのだろうが、そういう環境のなかで、キャセイパシフィックの落ち着きは心強い。特別なことをしている風でもないのだが、なにかがうまく機能しているのだろう。そのあたりは、ひとりの乗客にも伝わってくる。

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キャセイパシフィック航空に派手さはない。香港の気風だろうか

2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/05/23号 Vol.087


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1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

タイ・ライオンエアが出てこない日本の空

 最近のタイを中心にした旅を思い浮かべてみる。どのLCCに乗ったのだろうか。ウドンターニー、チャンラーイ、ウボンラーチャターニー、ヤンゴン……。すべてタイ・ライオンエアだった。
 LCCはやはり安さで選んでしまう。ウドンターニー空港へは、航空券を買わずに着いた。3つあるブースを全部まわった。タイ・エアアジア、ノックエア、タイ・ライオンエア。それぞれの料金を比べて、タイ・ライオンエアになった。バンコクへの片道が2500円ぐらいだった。これなどは露骨な料金比較である。いまのタイを中心にした中短距離路線を比較していくと、タイ・ライオンエア、タイ・エアアジア、ノックエアの順に高くなっていくことが多い。
 しかしLCCは運賃だけが選択要素ではない。就航時間がその次の要素になるだろうか。この時点で、かつてはタイ・ライオンエアが候補から落ちていくことが多かった。
 安いが運航する時間帯がよくなく、便数も少なかった。
「やっぱりタイ・エアアジアか」
 と思うことは多かった。
 しかし最近はタイ・ライオンエアが残ってくるのだ。着実に便数が増えているのだろう。
 ミャンマーを歩きながら、ある夜、タイのバンコクに向かう航空券を買おうと思った。午後まで用事があったので、夕方以降の便を探した。そこでもタイ・ライオンエアが顔をのぞかせていた。
 予約もスムーズに進んだ。
 1年ほど前のウボンラーチャターニーの夜を思い起こしていた。翌日、バンコクに戻るタイ・ライオンエアの便を予約しようと思ったのだが、支払いの画面で何回か止まってしまった。しばらく間を置き、再度、予約を入れて、やっと買うことができた記憶がある。しかし、ミャンマーではそんなこともなかった。
 着実にスムーズになっていた。そして便数も予想より早いペースで増えている。
 タイ・ライオンエアは、インドネシアの資本とタイ資本でつくられた航空会社だ。客室乗務員の服装もインドネシア風だ。
アジアの空のダイナミズムが伝わってくる。
 しかし日本のLCCに動きはない。日本航空の子会社のジェットスター、全日空の子会社のピーチとバニラ。この3社を追うLCCがなかなか登場してこない。競争の論理が生まれにくい。これから日本のLCCは高くなっていくのかもしれない。
 LCCを育てる根本的な土壌。アジアの自由さの反面、日本の硬直性が気になる。
 なぜ日本は、いつもこうなってしまうのだろうか。

lion
ライオンエアの機内。ごく普通のLCC。その雰囲気が伝わってくる

2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/04/25号 Vol.086


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たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

ロシア風LCCの立ち位置

S7というロシアの航空会社は、もとはシベリア航空だった……と聞くと、意外に思う人は多いかもしれない。いま、ロシアの空路をスカイスキャナーなどで検索すると、S7という文字が次々に登場する。どこかロシアを代表する航空会社のような気にもなる。実際、ロシア内では最大のシェアをもっている。
 しかしスタートはシベリアだったのだ。ウラジオストク、ハバロフスクの便数が多いのは、その名残かもしれない。
 その運賃を見て、S7がLCCと思う人もいるかもしれないが、その判断もなかなか難しい。そもそもロシアにLCCは存在するのかという問題もある。ロシアの航空会社は、機内食を用意することが義務づけられていると聞いたこともある。ロシアの航空局の決定だともいわれる。LCCの定義はますます曖昧になってきている。そのなかで、機内食はわかりやすい分類だが、それをあてはめれば、ロシアにはLCCは存在しないことになってしまう。
 以前、ヨーロッパでしばしばアエロフロートに乗った。そのシートピッチの狭さは、まさにLCCだった。その経験をあてはめれば、ロシアの飛行機はどれもLCCになってしまう。
 今年(2017年)の2月、成田空港からS7に乗った。目的地はウラジオストク。週に3便就航していた。
 乗客の大半はロシア人だった。そしてほぼ満席だった。体の大きい彼らが、狭い椅子に座っているところを見ると、S7はやはりLCCかとも思う。
 しかし運賃はそれほど安くなかった。片道3万円ほど。距離から考えるとやはり高い。ほぼ独占している路線だからしかたないのかもしれないが。
 今年の夏には、ウラジオストク空港でのアライバルビザが実現しそうだ。それを睨んでの就航とも受けとれられる。
 ロシアにもS7よりLCC色の強い航空会社が登場してきている。ポベダやドブロリュートなどだ。こういう会社が本格参入してくると、ロシアも本格的なLCC時代といえるのかもしれない。
 既存の航空会社からLCCに移行していく間、LCCのような顔をして、シェアを伸ばしているのがS7ともいえる。
 預ける荷物は有料だが、機内もち込みは9キロまで許されている。シンプルだが機内食は出る。そしてワンワールドに入っている。LCC風既存航空会社というのが、いまのところの正解かもしれない。
 ロシアの論理のなかでのLCC。アジアのLCCに乗る機会が多い僕は、そう思ってしまうのだ。
S7

2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/03/21号 Vol.085


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たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

プロペラ機が「来た」

 僕にとって、飛行機とはなんだろうか……と考えることがある。運賃とか、LCC、マイレージといったものに振りまわされてしまっているが、なにかが違うという思いはいつもある。
 ミャンマーのタチレクという街の空港で滑走路を眺めていた。
「来るだろうか……」
 空を見あげる。出発予定時刻を1時間ほどすいている。乗客たちは不安すら見せずに、ただ待っている。
 北側の空に小さな点が見え、やがて少しずつ大きくなってくる。
「来た」
 飛行機は来たら、搭乗することができる。それは僕の経験でもある。これまで、なかなか来ない飛行機をどれほど待っただろうか。
 こういう飛行機はプロペラ機である。さして大きくもない機体が滑走路に滑り込み、プロペラがまわる音がなんともうれしい。
 これで帰ることができる。安堵にとろけそうになる。
 さまざまな状況があった。アメーバ赤痢を患い、重い体を椅子にあずけながら飛行機を待ったカブールの空港。陸路での出国を拒否され、午前4時発という飛行機を待ったロシアのアストラハンの空港。天候が悪化し、わずかな晴れ間を縫うようにパキスタンのギツギット空港に姿を見せた小型のプロペラ機。
 飛行機だけが頼りだった。乗ることができなかったら、ただ待つしかなかった。3日ほど待ったこともある。
「今日も来なかった」
 とぼとぼと街の安宿に戻るのだ。
 僕にとって飛行機の原点は、そんなところにある気がする。陸路は治安や天候の影響で通行が難しくても、飛行機なら超えることができることがある。飛行機に頼るしかない状況がときにある。運賃やマイレージ、機内食など無縁である。とにかく飛んでくれればいいのだ。
 ミャンマーの空港で飛行機を待つ。まんじりともせずに滑走路を待ち続けていたときを思い出す。今日はタチレクからラーショーまで飛ぶ。外国人は陸路で向かうことが許可されていないルートである。ミャンマー北西部、シャン州の治安はまだ安定していない。
 しかし飛行機なら越えることができる。ATR72 というプロペラ機だ。滑走路でくるりと向きを変える。プロペラ機は小まわりが効く。
 到着が1時間半ほど遅れたが、不満はなにもない。離陸したのは、それからさらに1時間後だった。誰ひとり文句はいわない。ミャンマー人のとって飛行機とはそういうものなのだ。僕にとっても。

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タチレクからラーショーまでの運賃は100ドルほど

2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/02/21号 Vol.084


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たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

インドの空はインディゴで染まる?

久しぶりにインドに向かった。アッサム州のディブラガルから最南端のカンニャクマリまで列車に乗るためだった。
 まずディブラガ行きの飛行機を探した。そしてカンニャクマリ。この街には空港はなく、トリバンドラムが最寄りの空港だった。そこから帰国することになる。
 いろいろと検索していったのだが、最安値のLCCとして出てくるのはインディゴばかりだった。なんだかインドLCC世界はインディゴに染まったような気配すらある。結局、バンコク→コルカタ、コルカタ→ディブラガル、トリバンドラム→コーチという3路線がインディゴになってしまった。コーチからバンコクまではエアアジアが安かったが。
 インドの空はこんなだったのだろうか。
 しばらく前、僕はインドで乗ったLCCはキングフィッシャーとジェットエアウエイズだった。数年前の話だ。インディゴという航空会社は、正直なところ、その名前も知らなかった。知人はこんなこともいっていた。
「キングフィッシャーのサービスはいいですよ。きっとインド一になる」
 ところがいま、インドのLCCといえばインディゴという時代になってしまった。
 東南アジアを見ていても思うのだが、LCCのシェア争いは本当に厳しい。あっという間に色分けが変わっていく。ピーチ、バニラ、ジェットスターが多くの路線を占め、なかば無風状態が続く日本とは、なにか勢いが違うような気がする。
 インディゴは2006年に運行を開始した。それから約10年。いまではインド国内シェアのトップなのだという。
 3路線に乗ったが、運航時刻はかなり正確だった。コルカタからディブラガル行きの出発が20分ほど遅れただけだった。
 東南アジアのLCCのように、荷物が無料になったり、無料の軽食が出るようなサービスはなにもなかった。すべてが有料。その意味では、LCCの王道を進んでいた。シート間隔はそれほど狭くはなかったが、おそらく運賃と路線数で、シェアを伸ばしている気がする。
 客室乗務員はベレー帽にどこかミリタリー調とも思える制服で、インドのにおいはどこからもしない。新しいインドということだろうか。
 インドの空港も次々に新しくなってきている。コルカタ空港はなんだか恥ずかしくなるほど近代的になった。ターミナルを出た外の世界とのギャップはかなりある。トリバンドラムやコーチの空港も整ってきた。
 インドの新しい空の世界は、どこかインディゴのスタイルとダブってくる。インドではしばらく、インディゴの世界が続きそうだ。

インディゴ
ディブラガル空港に着いた。タラップは旧式だった

2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2016/12/20号 Vol.082


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下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

中間既存航空会社の時代

 前号を引き継ぐ内容になってしまった。中間クラスLCCの話である。
 今月、バンコクから帰国した。来月、中国の広州からチベットのラサまで列車に乗ることになっていた。バンコクから広州か香港経由で帰国し、復路で広州か香港までと思ったのだ。
 いろいろ調べていくと、香港航空がヒットしてきた。運賃を見て、
「香港航空が中間クラスか……」
 と呟いていた。
 バンコクと東京を結ぶ便を運賃で分けると、3つのグループに分けれる。
 ひとつは既存の航空会社グループで、タイ国際航空、日本航空、全日空、キャセイパシフィック、アシアナ航空などになる。キャンペーンや日程によって差があるが、だいたい往復2万バーツ、6万円といった金額が軸になる。
 もうひとつがLCCグループである。エアアジア、スクートなどが直行便を就航させている。こちらの運賃も変動があるが、往復1万バーツ、つまり3万円前後で買うことができたら、安いと思っていい。
 そして香港航空。バンコク発で買った運賃は往復で1万3000バーツだった。日本円にすると4万円弱ということになる。
 香港航空の名前は前から知っていたが、あまり存在感はなかった。2006年にできた航空会社で、既存航空会社とLCCという分類に当てはめると、既存航空会社になる。しかし運賃は既存の航空会社のなかではかなり安く、LCCに近い運賃を出していた。
 バンコクから乗ってみた。預ける荷物は無料で、かなりしっかりとした機内食がでる。座席指定も無料。シート間隔も通常で、シートテレビでは日本の映画も観ることができた。
 しかしアライアンスには加盟していない。運行時間帯もそれほどよくない。つまり香港航空は中間クラス既存航空会社といってもいいかもしれない。
 前号でタイスマイルを中間LCCと表現したが、見方を変えれば中間既存航空会社ともいえる。アジアの空には、このクラスの飛行機が飛びはじめるようになった。そこまで進んでいるのだ。
 感じるのは香港やタイの自由さである。日本を見ると、はたして中間クラス航空会社が出現するのか……と思う。LCCは乗りたくないが、既存の航空会社は高いという間隙を縫う存在。高齢化社会に向かうアジアでは、これから存在感を増していくような気がする。

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香港航空。シートテレビに日本の映画あるが、本数は少ない