2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

Profile
プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅をしながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第二回 吉田友和

ま マチュピチュ

前回が奄美大島だったので、いきなりドドンと遠くへ飛ぶ。マチュピチュ――インカ帝国の失われた空中都市。言わずと知れた世界遺産の代名詞的存在である。
場所は南米ペルー。日本からは地球のほぼ裏側に位置し、なかなか行けないだけに憧れが募る。僕が訪れたのは、いまから約10年前に夫婦でバックパックを背負って世界一周したときのことだった。インカ帝国のかつての首都クスコから列車とバスを乗り継ぎ到着したマチュピチュは、苦労して訪れた甲斐のある遺跡と言えた。入場口からてくてく歩いていくと、ほどなくして視界がパッと開ける。眼下に望める全景は、写真や映像で散々見ていたお馴染みのものだが、やはり実物をこの目にするのは大きな感慨が伴う。
立派な石垣が残る棚田跡や、インティワタナと呼ばれる日時計といった主要見学スポットを巡っていると、可愛らしい動物たちと目が合う。アンデスに生息するリャマやアルパカたちだ。ゆらゆら揺れるように佇むさまはどこか地球外生物を彷彿させる。バックには遺跡と、それを抱くようにして聳えるワイナピチュという名の急峻な山が存在感を誇示する。頂上から遺跡が見下ろせるとあって、ワイナピチュ登山はマチュピチュへやってくる観光客にとって定番のアクティビティになっている。
「よくあんなのに登るよなあ」と尊敬の念を抱きつつ、力強い登山者たちを横目に僕は草地にごろんとしながらリラックス。猫をあやすような声でリャマに話しかけ、写真を撮ったりしてのんびり戯れる。紛れもなくあの旅のハイライトだった。世界一周では計45カ国を回った。各地で気まぐれに遺跡見学もしてきたが、マチュピチュを越えるものには結局出合わなかった。遺跡というジャンルに限定するなら、これまでで最も良かったスポットだと断言してもいい。
ここ最近、「世界遺産」という四文字キーワードをやたらと目にする。元々人気のあるテーマだが、我らが富士山の世界遺産登録がめでたく決まったことで、ブームがさらに過熱しているようにも見える。
世界遺産、言葉の響きからして確かにいい。数ある観光地の中でもお墨付きのスポットと聞けば、旅先選びの際に優先順位が高くなるのも自然の成り行きと言える。
過去には僕自身、世界遺産だというだけで見に行ったスポットは少なからずある。だからあまり偉そうなことは言えないのだが、あえて書くなら最近は昔ほど興味がない。いや、まったくないと言ってもいいかもしれない。
「次は世界遺産をテーマに本を書きませんか?」
などと知り合いの編集者に言われたりもする。キャッチーで売れそうだが、いまいち気乗りしない。世界遺産の魅力について語り明かすトークイベントにゲスト出演した時には、「がっかり遺産と勝手に遺産」などというひねくれたタイトルで喋って顰蹙を買ったこともある。
興味を失ったのは、世界遺産といってもピンキリだと知ってしまったからだ。全部が全部、マチュピチュのように感動を味わえるわけではない。期待して行ってみたら、うーん……という微妙な感想を抱いたところも正直かなり多いのだ。まあ、僕の見る目がないのだと反論されたら返す言葉はないのだが。
一方で、別に世界遺産になど登録されていないのに素晴らしいところは山ほどある。えっこれが世界遺産じゃないんだ!? という驚きがむしろ付いて回る。世界遺産とは、あくまでもユネスコという一機関の判断で登録の是非が決められている事実は忘れてはならない。ミャンマーや台湾に世界遺産が一つもないのはなぜだろうか。想像し、つい色々と邪推してしまう。擦れた旅人なのかもしれない。
マチュピチュのことを書いているうちに、話が変な方向へ進んでしまった。水を差すつもりはないし、少なくともマチュピチュのせいではない。

※まちゅぴちゅ→次回は「ゆ」がつく旅の話です!


マチュピチュ
15世紀のインカ帝国遺跡とされ、目的や高度な建設技術など未だに謎に満ちた史跡。世界遺産の各種ランキングではピラミッドやアンコールワットと並び最上位にランクされることが多い。現在日本からペルーへの直行便は無く、北米を乗り継いで25時間程度かかる。さらにペルーの首都・リマから最寄りの都市・クスコまで飛行機で1時間程度。クスコからマチュ・ピチュまでは80km。(編集部)

2b. 連載:「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和  2013/07/16号 Vol.002


2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

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プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅をしながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第二回 吉田友和

ま マチュピチュ

前回が奄美大島だったので、いきなりドドンと遠くへ飛ぶ。マチュピチュ――インカ帝国の失われた空中都市。言わずと知れた世界遺産の代名詞的存在である。
場所は南米ペルー。日本からは地球のほぼ裏側に位置し、なかなか行けないだけに憧れが募る。僕が訪れたのは、いまから約10年前に夫婦でバックパックを背負って世界一周したときのことだった。インカ帝国のかつての首都クスコから列車とバスを乗り継ぎ到着したマチュピチュは、苦労して訪れた甲斐のある遺跡と言えた。入場口からてくてく歩いていくと、ほどなくして視界がパッと開ける。眼下に望める全景は、写真や映像で散々見ていたお馴染みのものだが、やはり実物をこの目にするのは大きな感慨が伴う。
立派な石垣が残る棚田跡や、インティワタナと呼ばれる日時計といった主要見学スポットを巡っていると、可愛らしい動物たちと目が合う。アンデスに生息するリャマやアルパカたちだ。ゆらゆら揺れるように佇むさまはどこか地球外生物を彷彿させる。バックには遺跡と、それを抱くようにして聳えるワイナピチュという名の急峻な山が存在感を誇示する。頂上から遺跡が見下ろせるとあって、ワイナピチュ登山はマチュピチュへやってくる観光客にとって定番のアクティビティになっている。
「よくあんなのに登るよなあ」と尊敬の念を抱きつつ、力強い登山者たちを横目に僕は草地にごろんとしながらリラックス。猫をあやすような声でリャマに話しかけ、写真を撮ったりしてのんびり戯れる。紛れもなくあの旅のハイライトだった。世界一周では計45カ国を回った。各地で気まぐれに遺跡見学もしてきたが、マチュピチュを越えるものには結局出合わなかった。遺跡というジャンルに限定するなら、これまでで最も良かったスポットだと断言してもいい。
ここ最近、「世界遺産」という四文字キーワードをやたらと目にする。元々人気のあるテーマだが、我らが富士山の世界遺産登録がめでたく決まったことで、ブームがさらに過熱しているようにも見える。
世界遺産、言葉の響きからして確かにいい。数ある観光地の中でもお墨付きのスポットと聞けば、旅先選びの際に優先順位が高くなるのも自然の成り行きと言える。
過去には僕自身、世界遺産だというだけで見に行ったスポットは少なからずある。だからあまり偉そうなことは言えないのだが、あえて書くなら最近は昔ほど興味がない。いや、まったくないと言ってもいいかもしれない。
「次は世界遺産をテーマに本を書きませんか?」
などと知り合いの編集者に言われたりもする。キャッチーで売れそうだが、いまいち気乗りしない。世界遺産の魅力について語り明かすトークイベントにゲスト出演した時には、「がっかり遺産と勝手に遺産」などというひねくれたタイトルで喋って顰蹙を買ったこともある。
興味を失ったのは、世界遺産といってもピンキリだと知ってしまったからだ。全部が全部、マチュピチュのように感動を味わえるわけではない。期待して行ってみたら、うーん……という微妙な感想を抱いたところも正直かなり多いのだ。まあ、僕の見る目がないのだと反論されたら返す言葉はないのだが。
一方で、別に世界遺産になど登録されていないのに素晴らしいところは山ほどある。えっこれが世界遺産じゃないんだ!? という驚きがむしろ付いて回る。世界遺産とは、あくまでもユネスコという一機関の判断で登録の是非が決められている事実は忘れてはならない。ミャンマーや台湾に世界遺産が一つもないのはなぜだろうか。想像し、つい色々と邪推してしまう。擦れた旅人なのかもしれない。
マチュピチュのことを書いているうちに、話が変な方向へ進んでしまった。水を差すつもりはないし、少なくともマチュピチュのせいではない。

※まちゅぴちゅ→次回は「ゆ」がつく旅の話です!


マチュピチュ
15世紀のインカ帝国遺跡とされ、目的や高度な建設技術など未だに謎に満ちた史跡。世界遺産の各種ランキングではピラミッドやアンコールワットと並び最上位にランクされることが多い。現在日本からペルーへの直行便は無く、北米を乗り継いで25時間程度かかる。さらにペルーの首都・リマから最寄りの都市・クスコまで飛行機で1時間程度。クスコからマチュ・ピチュまでは80km。(編集部)