2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/12/26号 Vol.094


2. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

Profile
shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

ノックスクートの苦戦

 つらい時間のフライトである。バンコクのドーンムアン空港を離陸するのが午前2時25分。台北の台湾桃園国際空港には朝に着く。
「やはりつらいよな。なかば徹夜になる」
 予約を進めながら、何回か手が止まった。
 ダントツの安さだった。片道が7000円台。午前中に着く便でみると、次に安いのが2万円台。こうなると、どうしても価格になびいていってしまう。
 元気なときなら、「頑張るか」と予約に走るのだが、疲れが溜まっているときや、なにかの悩みがあるときなど、心が乱れる。
 航空会社はノックスクートだった。
 結局、この便にしてしまった。ドーンムアン空港に行くと、出発が1時間遅れるという表示が出ていた。
 深夜にドーンムアン空港を出発する便は中国方面が多い。中国人の横で、ベンチに横になる。少しでも寝ようと試みる。
「やはりやめるべきだったか」
 乗り込んでみると、機材はボーイング777だった。やけに広い。これだけの座席を埋めなくてはならない。7000円台の運賃を出すのは無理がないのかもしれなかった。
 ノックスクートの状況はあまりよくない気がする。ノックエアとスクートが共同出資して、長距離LCCを標榜した。2014年に運航を開始しているが、路線はなかなか増えない。中国路線がメインになっている。もっている機材は3機だから、路線を増やすのにも限界があるが。
 バンコクと台北を結ぶ路線にしても、本来なら中型機でことは足りるのかもしれない。しかし保有しているのが、ボーイング777だけだから、これで飛ぶしかない。長距離LCCのよさを発揮できていないのだ。
 寝るしかないフライトだが、飛行時間は4時間にも満たないから、仮眠状態で台北に着くことになる。
 台北に着き、台北駅の北側にある宿に着いたのは午前11時前だった。
「12時半以降のチェックインなら900元ですが、いまチェックインすると1000元になりますけど」
 そこでまた悩む。最近の台湾の宿は、チェックインやチェックアウトの時間に厳格になってきた。LCC派にはつらいことかもしれない。
「100元の差ならよしとするか」
 そうして部屋に入り、ベッドに倒れこんだ。
 やはりこの便はつらい。しかし次もまた乗っている気がする。


台北に着いたのは午前8時すぎだった。座席は7割ほど埋まっていた