2. 連載:「タビノート」 下川裕治  2017/04/25号 Vol.086


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

Profile
shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

ロシア風LCCの立ち位置

S7というロシアの航空会社は、もとはシベリア航空だった……と聞くと、意外に思う人は多いかもしれない。いま、ロシアの空路をスカイスキャナーなどで検索すると、S7という文字が次々に登場する。どこかロシアを代表する航空会社のような気にもなる。実際、ロシア内では最大のシェアをもっている。
 しかしスタートはシベリアだったのだ。ウラジオストク、ハバロフスクの便数が多いのは、その名残かもしれない。
 その運賃を見て、S7がLCCと思う人もいるかもしれないが、その判断もなかなか難しい。そもそもロシアにLCCは存在するのかという問題もある。ロシアの航空会社は、機内食を用意することが義務づけられていると聞いたこともある。ロシアの航空局の決定だともいわれる。LCCの定義はますます曖昧になってきている。そのなかで、機内食はわかりやすい分類だが、それをあてはめれば、ロシアにはLCCは存在しないことになってしまう。
 以前、ヨーロッパでしばしばアエロフロートに乗った。そのシートピッチの狭さは、まさにLCCだった。その経験をあてはめれば、ロシアの飛行機はどれもLCCになってしまう。
 今年(2017年)の2月、成田空港からS7に乗った。目的地はウラジオストク。週に3便就航していた。
 乗客の大半はロシア人だった。そしてほぼ満席だった。体の大きい彼らが、狭い椅子に座っているところを見ると、S7はやはりLCCかとも思う。
 しかし運賃はそれほど安くなかった。片道3万円ほど。距離から考えるとやはり高い。ほぼ独占している路線だからしかたないのかもしれないが。
 今年の夏には、ウラジオストク空港でのアライバルビザが実現しそうだ。それを睨んでの就航とも受けとれられる。
 ロシアにもS7よりLCC色の強い航空会社が登場してきている。ポベダやドブロリュートなどだ。こういう会社が本格参入してくると、ロシアも本格的なLCC時代といえるのかもしれない。
 既存の航空会社からLCCに移行していく間、LCCのような顔をして、シェアを伸ばしているのがS7ともいえる。
 預ける荷物は有料だが、機内もち込みは9キロまで許されている。シンプルだが機内食は出る。そしてワンワールドに入っている。LCC風既存航空会社というのが、いまのところの正解かもしれない。
 ロシアの論理のなかでのLCC。アジアのLCCに乗る機会が多い僕は、そう思ってしまうのだ。
S7