2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2016/9/6号 Vol.078


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

Profile
shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

成田便と羽田便の差が教えるもの

 日本とアジアを結ぶ路線からのアメリカ系航空会社の撤退が相次いでいる。デルタ航空は成田―バンコク線を秋から運休することを発表した。ソウル、香港、北京線はすでに運航をやめている。アジアとアメリカを結ぶ路線が減っているわけではない。成田乗り継ぎ便がなくなりつつあるのだ。
 背後にあるのはアジア諸国の成長だ。とくに中国。北京―成田―アメリカという便をつくっても、北京で席が埋まってしまう。中国人にしても、日本で乗り換えるよりも、ノンストップ便を選ぶだろう。そこにアベノミクスによる円安が拍車をかけた。日本円での収入では利益が減ってしまう。
 ユナイテッド航空もその流れのなかにいる。以前は成田とバンコクを結ぶ便によく乗った。しかしその路線からも撤退。成田―シンガポール間のユナイテッド航空の最終便に乗った話は、この記事でも紹介した。
 デルタ航空の変更は、羽田空港の発着枠の協議を受けたものだった。ユナイテッド航空は全日空、アメリカン航空は日本航空という同じアライアンスの日系航空会社がある。アメリカから羽田に着いたユナイテッド航空便とアメリカン航空便の乗客は、全日空、日本航空につなぐことができる。しかしデルタ航空には、同じアライアンスの日系航空会社がない。そのなかでアジア路線を見直すための変更と説明している。
 しかし話はそう単純ではない。
 僕はユナイテッド航空のマイレージを貯めている。バンコクに出向くことが多いが、東京を結ぶ便の運賃を見ると、全日空が安くなることが多い。バンコクと東京を結ぶ全日空便は羽田便と成田便がある。成田便のほうが安くなる。少しでも安い運賃を選ぶタイプだから、全日空に乗るときは成田便を選ぶ。
 NH805便とNH806。805便は夕方の18時半頃に成田空港を出発する。帰国便はバンコクを朝の7時前後に出る。チェックインは早朝5時。ホテルで起きるのは午前3時……。
 ピンとくる方もいるかもしれない。そう、かつて運航されていたユナイテッド航空便とほぼ同じ時間帯なのだ。ユナイテッド航空路線を全日空が引き受けた形だ。
 乗客に日本人は多くない。ほとんどが成田で乗り継ぐアメリカ人だ。全日空便だと思って乗った日本人は少し戸惑うかもしれない。客室乗務員は全員、日本人だが。
 客の大半はアメリカ人だからということもないと思うが、羽田便に比べると使う飛行機は旧式だ。日本人を対象に考えれば、それほどの競争もないわけだから、機材が少し劣っても……と全日空は考えているのだろうか。これが成田便と羽田便の違いなのだろうと思う。

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成田からバンコクに向かうNH805便。アメリカから乗り継ぐインド人が目立った