2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2016/8/23号 Vol.077


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

Profile
shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

荷物は30キロまで無料のマリンドエア

ここまできたか……。
 クアラルンプールに向かう飛行機のなかで、つい呟いてしまった。
 マリンドエアである。アジア内をLCCで移動することが多い。航空券を買うときは、スカイスキャナーなどの検索サイトのお世話になる。そんなとき、この航空会社名はときどき目にしていた。しかしなかなか搭乗する機会はなかった。
 バンコクからクアラルンプールへの便を見た。その日のいちばん安い便がマリンドエアだった。朝の便で、片道9000円ほどだった。
 予約を進めながら、預けることができる荷物の重さに目がいった。30キロまで無料だった。最近LCCのなかには、預ける荷物の無料枠を広げるサービスをはじめるところがある。競争が激しいのだろうが、30キロというのは多い。既存の航空会社、いやそれ以上の量である。
 当日、機内に乗り込んで、一瞬、戸惑った。機内からLCC感が漂ってこないのだ。
 まず、シート間隔が既存の航空会社と同じだった。通常のLCCより広いのだ。ゆったりとしている。そして座席の背にはシートテレビがはめ込まれていた。
 離陸し、コントローラーをいじってみる。日本語はなかったが、ちゃんと映画も放映される。ゲームもあった。
 しばらくすると、カートを押した客室乗務員が現れ、軽食を配りはじめた。菓子パンが2個に水がテーブルに置かれた。
 パンをかじりながら、いったいどこがLCCなのかと考えてみる。少なくとも、機内サービスの違いはほとんどない。
 気になってその日の夜に調べてみた。座席指定は有料だった。既存の航空会社との違いはそれだけだった。いや、運賃がLCCなのだが。
 マリンドエアは、インドネシアのライオンエアとマレーシアの会社が出資してできた航空会社だった。設立は2012年。年を追ってその路線を増やしている。僕が乗ったバンコクとクアラルンプールを結ぶ路線も、就航して、そう月日がたっていなかった。クアラルンプールでは、KLIA2は使わず、KLIA1やスバン空港を使う。
 東南アジアでLCCが一気にその路線を増やしていったのは2000年頃からだ。その先頭を走っていたのがマレーシアのエアアジアだった。その後も新興LCCが次々に登場し、ついに既存の航空会社との違いを見つけにくいサービスをはじめた。LCCと既存の航空会社の境界は渾然というより、一体化の道を進みはじめた気がする。

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ライオンエアとそのグループは東南アジアのLCCを変えつつある