3a. tabinote旅行記 御柱祭のついでに長野の私鉄に乗ってきた ~立案編 その1~


3a. 御柱祭のついでに長野の私鉄に乗ってきた ~立案編 その1~

今号よりハードコア音鉄(おとてつ)車内走行音派の黒田基介氏による、長野県私鉄走行音録音紀行レポートの短期連載がはじまります。ご期待ください。
(注:本事例は2016年4月時点の予約可能なプランおよび費用にもとづいています。また、一部図版がサイズの関係で判読しづらい場合があります。後日PC用サイトにアップされるバックナンバーには原寸の図版を掲載する予定です。メルマガ版では雰囲気だけでもお楽しみください)

Profile
黒田基介

黒田基介

黒田基介(くろだ・もとすけ)
1975年東京都世田谷区生まれ。音鉄車内走行音派。

音鉄車内走行音派の黒田と申します。鉄道の走行音を録音する事を趣味としています。長野県北部のローカル線の旅をしてきました。

旅は高田馬場の飲み屋から始まった

高田馬場の飲み屋で、長野県へ帰る友人の送別会をしていた。
「御柱祭の準備をするために、東京を引き払って諏訪へ帰るんです」
「御柱祭ってあれかあ、人が死ぬやつ」
「六年に一度のお祭りなんです。来ませんか」
来ませんか・・・諏訪・・・長野県・・・。そういえば何かの折に長野県で見た、コルゲートが美しい銀色の車両を思い出した。あれはどこだったっけなあ。乗ってみたいな。鉄道趣味の旅は、もう始まっている。

おおまかな骨組みを確認する

鉄道趣味の旅の半分はプランニングと言っても過言ではない。実際、自宅に居ながら時刻表を眺めて旅行の予定を想像するだけで楽しむ人もいるくらいだ。さて自分の旅の現時点で判明している情報を整理する。
おおまかな骨組みを確認する01
基本的には土日を利用して諏訪周辺の良さそうな電車に乗ってこよう。という計画だ。

まずは目的の路線を決めなければ

長野県の私鉄を検索しつつ「コルゲートが美しい銀色の車両」を探してみる。いわゆる「おたく」として、私の致命的な欠陥は記憶力が異常に低いということだ。鉄道趣味を標榜していながら、長野県の私鉄が全くわからない。時刻表を買って路線図を見つつ、wikiで調べなくてはならない。
まずは目的の路線を決めなければ01
長野県の主な私鉄は以下の図のようになっている。
路線図
(出典:「JR時刻表2016/3」交通新聞社 から黒田編集)

この図を見ているだけで松本電鉄、上田電鉄、長野電鉄は必ず乗るとして、いくつもプランが思い浮かぶ。
・長野県に行くのに太平洋側から攻める飯田線もしくは身延線プラン
・いっそ御殿場からバスで甲府というのはどうか
・海の無い県へ行くのに日本海に出てしまうとかえちごトキめき鉄道
・なんか中途半端な位置にある北越急行
・東側からアクセスの飯山線は案外普通すぎるか
・吾妻線からバスで長野電鉄を逆コースで長野へ
・小海線とか軽井沢経由もありきたりか

夢ばかりみてはいられない。現実的に目標を決めなければならない。目標が決まらなければ旅には出られない。音鉄には、ふらっと旅へなどという言葉はない。観光スポットを探すように、どんな車両があるのか探さなければならない。車両を選ばなければどの路線に乗るかも決めることが出来ない。wikiで調べてリストを作る。
まずは目的の路線を決めなければ03
さて、この中から車両選びだ。理屈抜きの個人的な嗜好として、国鉄車両と1975年以前製造の私鉄車両を最優先としたい。多少補足すると、JR以前の国鉄車両の無骨さが好きであること。また、移動機械として異例に長寿命である鉄道車両には、私の生年1975年に走っていたものもいくつか残っている。目をつぶって音だけ聞けば、その当時の雰囲気を味わうことができるのが楽しい。なので1975年以前の車両は必ず乗りたい。

その観点で上表オレンジの車両を候補とした。というわけで、予定に組み込むべき路線は。
・松本電鉄 上高地線
・上田電鉄 別所線
・しなの鉄道 しなの鉄道線/北しなの線
・長野電鉄 長野線 < 例の銀の車両!
・富士急行
・JR篠ノ井線
鉄の間では定番の飯田線、身延線や小海線には私の乗りたい車両がないのは意外。

これらを、土日に詰め込める。訳がない。いや、単純に一筆書きのようになぞればあるいは可能かもしれないが、問題がある。私が「乗る」という場合、その列車の始発駅から終着駅まで乗らなければならないからだ。なぜならば、私の趣味が鉄道の録音であるからだ。もし、一部分だけ録音するとしよう。それは、その路線の代表的な一部分でなければならないが、そのような区間は無い。全てが特徴的で代表的なのだ。更に言えば、片道だけでいいのか。という問題になる。即ち往復してこそその路線、その列車に乗ったことになる。というわけで、一つの路線に乗りたい車種が複数ある場合、車種の数だけ往復しなければならない。いやいや、上表を見る限りオレンジの車両はだいたい各路線に一つずつしか無いではないか、その縛りがあっても全部乗るのは可能だ。と言われよう。では、考えてもらいたい。録音するにあたり失敗する要素はいくらでもある。もし一往復しか予定に入れていなかった場合。少しの失敗が命取りになる。大げさに聞こえるかもしれないが。現地までの往復の時間とお金を考えると、一度の機会にできるだけ往復しておきたい。別の日にもう一度そこへ行くくらいなら、また他の土地の鉄道に乗りたいものだ。だがしかし、富士急行は静岡県の鉄道であることだし、東京からのアクセスも比較的良いので今回は外すことにする。

「入り」と「出」を決める

東京から現地への、また現地から東京へのアクセスは最初に確定しなければならない。それによって現地での行動時間が決まるからだ。しかしそう簡単ではない。てきとうに選んだ特急がてきとうなJR車両だった場合、旅のテンションはガタ落ちである。旅の始まりと終わりは国鉄車両であるべきだ。長野へのアクセスは新宿から中央本線なので、そこで使用されている車両を調べる。
(例によって国鉄車両はオレンジ色)
「入り」と「出」を決める01
なかなかテンションの上がるラインナップだが、よく見ると「あずさ」一択だ。しかも、あずさはJR車両と国鉄車両が混ざっている。どの時間の列車が国鉄車両か調べなければならない。こういう場合、鉄道会社に直接聞くことは避けたい。鉄道趣味の人間として鉄道会社には迷惑をかけるわけにはいかない。幸いにして臨時列車の使用車両は公開されている。「鉄道ダイヤ情報」を買いにゆく。
「入り」と「出」を決める02
「入り」と「出」を決める02-2
結局移動当日のあずさの183・189系の運用はなかった。そうなると、この時点で「スーパーあずさ」E351系を自動的に選択することになる。しかし国鉄車両無しの「入り」は悲しすぎる。ではどうするか。再び時刻表を見る。
「入り」と「出」を決める02B
(出典:「JR時刻表 2016/3」)
平日限定で「おはようライナー」というのがある。平日限定ということは現在の日程では乗れない。けれど、乗るしかない。水曜日も休むことにして木曜日の朝に「おはようライナー」に乗る・・・というわけで変則的ながら「おはようライナー」乗車をもって、国鉄車両での「入り」とする。「始発終着」の縛りで「スーパーあずさ」は一度松本まで行ってから戻る。当然長野>上諏訪は「始発終着」である。

「入り」と「出」を決める03-1
「出」であるが、利用可能な(国鉄)車両は「入り」と同じ列車リストの中から選ばなければいけないので、ほぼ自動的に「はまかいじ」に決まる。松本>横浜という東京を外した発着が魅力でもある。しかも18:41横浜なら、軽く根岸線を攻めることも可能だ。
「入り」と「出」を決める03-2

2016/04/07の予定

おおまかな予定が決まったので一日ずつ予定を埋めてゆく。
この日は最初の「おはようライナー」と、最後に上諏訪の友人宅へ到達しなければならない。上諏訪集合時間は未定ながら、まあ友人の実家へ訪問すると考えて、常識的な時間を設定する。
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まずは、8:01長野着の後だ。地方路線は各社のホームページに時刻表が出ているので最新のものを見て予定を立てる。全国版の時刻表だと細かいところがわからないのだ。ホームページの時刻表を見ると、長野電鉄はどうやら2つの区間に分かれている。
長野-信州中野-湯田中
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(出典:長野電鉄)
長野電鉄で乗りたい車種は3500系と8500系の二車種。ちなみに3500系は思い出の「銀の電車」だ。wikiで調べると「信州中野<>湯田中」は3500系だけしか走行できないらしい。つまり「長野<>湯田中」は3500系。「長野<>信州中野」は8500系、と予想する。二車種を乗るためには「長野<>湯田中」「長野<>信州中野」の二往復しなくてはならない。時刻表上「須坂<>湯田中」というダイヤも存在して気になるが、おそらく時間が足りないので乗らないでおくことにする。

さて、「おはようライナー」が8:10に長野駅着。時刻表を見ると8:29信州中野行きが最も早いのでこれに乗ることにする。9:18に信州中野に到着して、長野に戻る列車は時刻表によると何本かある。
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(出典:長野電鉄)
到着後すぐにあるのは9:19に発車する。しかしこれは乗り換え時間が短すぎる。録音は列車が停止してドアが開いてから到着アナウンスが終わるまで続けなければならない。列車が乗り込む前には行き先が表示された先頭車両と、乗り込む車両の車両番号が見える側面の写真。乗り込む車両の内部の写真を撮影しなければならない。これを1分でこなすのは不可能だ。
次の列車は9:45。これは湯田中発の列車で「始発終着」ルールに反する。というわけで9:18に信州中野に到着して、使える次の列車は10:40発の列車となる。効率が悪いが仕方がない。乗り換え時間、「始発終着」ルールを適用してその後の予定を同様に立案してゆく。
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上諏訪に向かう時間を考えると結果この日は長野電鉄しか乗ることができない。しなの鉄道は別の日に回すこととする。上諏訪入り時間が判明してからもう少し余裕ができるかもしれないが、今のところこの予定でゆく。

2016/04/08の予定

この日は御柱祭が終わってから長野へ行かなければならない。翌日めいっぱい長野の電車にのるためだ。御柱祭の情報は全くわからない。調べると17時には終わるらしいが、結構遅れることもあるようだ。何より諏訪の友人がほとんどネットをやらないので連絡が取れないのだ。というわけでギリギリ何時まで上諏訪にいられるか調べなければならない。まずは長野に到着する終電を調べる。
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この終電から逆算して決めてゆく。次は松本までの移動だ。
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(出典:「JR時刻表 2016/3」)
上諏訪から松本に22:48までに到着するルートは三つ。
20:40甲府発松本行 「始発終着」ルール的には採用できない。
21:48塩尻発松本行 OK。
20:18茅野発長野行 茅野は上諏訪から上り方面の一駅隣である。
よさそうではあるが、少し時間が早い。御柱祭が終わっていないかもしれない。
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というわけでこういう予定で。ただの移動だし、本数少ないけどいたしかたあるまい。

2016/04/09の予定

前日の移動のおかげでこの日は一日長野にいる。やっと一日電車にだけ乗っていられる!
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長野で始まり長野で終わる素敵な予定表だ。前々日に長野電鉄は終わっているはずなので、残るは「しなの鉄道北しなの線」「しなの鉄道しなの鉄道線」「上田電鉄別府線」。これを04/09と、04/10の松本に行く前に乗らなければならない。作戦としては2案。
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A案だと4/10に上田電鉄をやってから松本へ向かわなければならない。上田電鉄で乗りたい車種は3種類だ。少し時間がかかりすぎるかもしれない。逆にB案には利点がある。大抵の地方私鉄には「一日フリーきっぷ」がある。何往復もする場合が多いので、立案時に「一日フリーきっぷ」があるかどうか調べておくのだが、しなの鉄道のHPには「一日フリーきっぷ」の存在が確認できない。かわりに上田電鉄のHPには、上田電鉄のフリーきっぷと「上田電鉄+上田軽井沢間」のフリーきっぷが掲載されている。つまり「上田電鉄としなの鉄道線」をペアにしておいた方が金額的に有利だ。というわけでまずはB案で立案してみる。乗り換え時間が長すぎたりした場合にはA案も検討する。

さて、二つの路線があるのでどういう順番で乗るべきなのかという問題なんだが。基本の戦略は遠いところからやるということだ。行動中に何かトラブルが起きた場合に、近い路線の方がリカバリーがやり易いからだ。どちらか迷う場合は、遠い方から予定を立てて乗り継ぎの時間がかかりすぎる場合に、逆のパターンを立案をすることにしている。というわけで、「しなの鉄道しなの鉄道線」で軽井沢へ先に行ってから「上田電鉄別所線」をやる方向で予定を立ててゆく。

いつもの手順どおり各社ホームページから時刻表をダウンロードすると、上田電鉄のダイヤを調査中に意外なものを発見した。「運用表」だ。
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(出典:上田電鉄)
通常、鉄道会社がどのダイヤにどの車種を使用するのかわかりやすい形で公表することはない。乗りたい車種がある場合、は以下の手順を踏む。
・路線を走っている車種と保有数を調べて何本に一本の割合かアタリをつける
・その路線を監視している人のHPを見つけて車種毎の運用予測を調べる
・何本分か時間に余裕をもって予定を立ててホームで待つ
路線を監視している人がいるのはかなり稀なケースだ。そして、時間に余裕をもつことにより旅程の効率が落ちるし、そもそも運が悪いと来ない、来たとしても時間によってその後の旅程を現場で変更しなければならない。つまり、3車種に乗る予定の上田電鉄で「運用表」が公開されているのはかなりラッキーだ。

「運用表」によると上田電鉄では、4運用。そのうち朝と夕方のみの運用が1つずつ。つまり、朝夕の上田電鉄に挟んで「しなの鉄道線」を攻めるのが効率が良いようだ。「しなの鉄道しなの鉄道線」を先にやると決めたばかりだが、「上田電鉄別所線」で挟んで「しなの鉄道しなの鉄道線」をやるというプランを立てる。(ちなみに実際には、朝から「しなの鉄道線」で軽井沢へ行く予定を一度立てている。その後の「上田電鉄」の調査の段階で上記が判明している。)
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ラッキーなことに、19:54には長野に戻ってこれる。北しなの線もやってしまえそうだ。少し余裕があるので、04/07の長野電鉄の複雑な運用によって2車種+2行先をこなせなかった場合のことを考え、19:54に長野に到着した後の予定を二案立てておく。
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016/04/10の予定

最終日は、最後に「はまかいじ」に乗れればよい。が、15:21発なのでちょっと時間が早い。
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ここまでで「松本電鉄上高地線」と「しなの電鉄北しなの線」以外の路線は消化できていると仮定して、帰りの「はまかいじ」に向けて予定を逆算してゆく。
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松本電鉄は1車種+1行先だが余裕があるので2往復としておいたとしても、松本は12:00には到着していればよい。
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(出典:ジョルダン)
随分余裕がある(実際は現地で携帯で調べている)。「しなの鉄道北しなの線」、「長野電鉄長野線」を念のためやってもいいが、今一度周辺の路線図を確認する。直江津、糸魚川経由というの、魅力的に見えないだろうか。北しなの線を片道乗れるのも良い。ざっと予定を立ててみる。
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松本乗り換えに間に合うばかりか、乗換時間も全て30分以内という高効率である。こういうお誂えのような予定が立つと気持ちが良い。特に乗り換え時間がかかりすぎることが多い地方路線ではなかなかお目にかかることができない。途中の乗換時間が4分9分3分2分というスリリングな展開だ。長野に来て日本海を見て帰る。この予定で行ことに決めた。

旅程全体

以上のように立案した旅程は以下のとおりだ。
乗車予定列車数:40
録音予定列車数:32
旅程全体_01

※次号に続く