2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

Profile
プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅しながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第58回 吉田友和

さ 真田幸村

 初めての海外旅行が世界一周だったわけだが、そういえば国内旅行のデビュー戦はいつだったのだろうかとフト気になった。
 というわけで、改めて記憶を繙いてみる。子どもの頃に親に連れられて出かけた旅や、学校の修学旅行はまず除外した方がいいだろう。あくまでも自主的に志した旅に限定したい。さらには自分で稼いだ金で実現した旅という条件も設定してみる。すると、いよいよ絞り込まれた。高校生のときに、バイト先の同僚と出かけた小旅行である。かれこれもう二十年以上も前の話になる。
 あれは目的がはっきりした旅だった。行き先は長野県の上田市。ずばり、真田巡りの旅である。真田というのは、戦国の名将・真田幸村(信繁)のことだ。ちょうどいまNHKで『真田丸』が放映中だが、まさに大河ドラマの主人公がその人である。上田市は真田氏の居城があったところで、周辺にはゆかりのスポットが点在している。それらを見て回るのが、その旅の目的だったというわけだ。
 いまにして思えば、高校生にしてはいささか地味というか、おじさんくさいテーマだよなあと正直思う。歴史好きが高じて思い立った旅だった。当時の僕は戦国時代にドハマリしていたのだ。学校の図書館で時代小説を借りてきては、それを読みながら通学電車に揺られるのが日課になっていた。
 中でも好きだったのが池波正太郎の『真田太平記』である。幸村は関ヶ原の合戦で西軍に属し、大坂の陣で華々しい最期を飾った。夏の陣では敗戦濃厚な中でも一歩も引かず猛攻を続け、徳川家康の本陣まであと少しのところまで迫った。その獅子奮迅ぶりから「日本一の兵(ひのもといちのつわもの)」と讃えられることになる。
 戦国時代のエピソードというのはいずれも男子的なロマンに溢れているが、幸村の武勇伝は僕にとって別格で、すっかり魅了されてしまった。なにせ、バイトして稼いだ金でゆかりの地巡りまでしているぐらいだ。当時は単車を乗り回してもいたのだが、我が愛車に六文銭のマークをあしらうほどの熱の入れようだった。六文銭は真田家の家紋である。
 いまにして思えば、なんて痛い行動なのだろうと呆れるが、高校を卒業した後も熱は冷めなかった。大学時代はDJ活動に力を注いでいた。授業が終わると渋谷へレコードを買いに行き、夜はクラブで踊り明かす日々。これはさらに恥ずかしいのだが、この際もう開き直って書いてしまうと、そのときのDJネームが「DJ SAEMON」だった。真田幸村の官位である「左衛門佐」から取ったものである。
 ほかにも、戦国時代をテーマにした某シミュレーションゲームがらみのエピソードもたっぷりあるのだが……、それはまあ話がかなり長くなるのでまた別の機会にしたい。
 普段はまったくテレビを観ない生活をしているが、『真田丸』だけは毎回欠かさずチェックしている。ナスネ(ソニーのネットワークレコーダーですね)を導入して、どこかへ旅行中であってもほぼリアルタイムで視聴できる体勢を整えたほどである。史実に忠実でありながらも、予定調和ではなくドラマチックな展開でハラハラさせられる。自分の場合、予備知識がありすぎて楽しめないのではないかと懸念していたが、それも杞憂に終わった。きっと脚本がいいのだろうなあ。
 大河ドラマの影響で、旅行界ではいま真田巡りがブームになっているのだという。書店へ行くと、そのためのガイドブックまで販売されているほどだ。せっかくなので購入してみたら、想像した以上に内容も厚くて感心させられた。自分も昔、三国志の武将スポットを巡る旅のガイドブックを作ったことがある。めちゃくちゃ大変だったけれど、あれほど生き生きと取り組めた仕事はなかなかない。
 そういえば先日、僕の周りの旅友だちの中でも、さっそく真田巡りと称して上田詣でをしている者がいた。日頃から海外旅行へせっせと出かけるタイプなのだが、そういう旅人でさえも足を運びたくなる要素があるのだろう。いまでは東京から上田まで新幹線が開通しているから、楽に行けるようになった。
 実は七年前にも僕は上田を訪れていた。『サマーウォーズ』というアニメの舞台になり、その聖地巡礼が盛んだった頃だ(同作品中にも真田がらみのエピソードが少し出てくる)。秋真っ盛りで紅葉が美しい季節だった。探してみると、そのときの写真が見つかったので、季節外れで恐縮だが記念に掲載しておきたい。燃えるような真っ赤なモミジをバックに真田の赤備え……? これ自分です、はい。相変わらず行動が痛々しいのだが、高校生の頃から大して成長していない、ということで。

【新刊情報】
筆者の新刊『思い立ったが絶景』(朝日新書)が3月11日に発売になりました。絶景を目的とした旅について客観的に分析し、カラー写真を交えながらエッセイにまとめました。

※真田幸村→次回は「ら」がつく旅の話です!

2b. 連載:「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和  2016/5/17号 Vol.071


2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

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吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅しながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第58回 吉田友和

さ 真田幸村

 初めての海外旅行が世界一周だったわけだが、そういえば国内旅行のデビュー戦はいつだったのだろうかとフト気になった。
 というわけで、改めて記憶を繙いてみる。子どもの頃に親に連れられて出かけた旅や、学校の修学旅行はまず除外した方がいいだろう。あくまでも自主的に志した旅に限定したい。さらには自分で稼いだ金で実現した旅という条件も設定してみる。すると、いよいよ絞り込まれた。高校生のときに、バイト先の同僚と出かけた小旅行である。かれこれもう二十年以上も前の話になる。
 あれは目的がはっきりした旅だった。行き先は長野県の上田市。ずばり、真田巡りの旅である。真田というのは、戦国の名将・真田幸村(信繁)のことだ。ちょうどいまNHKで『真田丸』が放映中だが、まさに大河ドラマの主人公がその人である。上田市は真田氏の居城があったところで、周辺にはゆかりのスポットが点在している。それらを見て回るのが、その旅の目的だったというわけだ。
 いまにして思えば、高校生にしてはいささか地味というか、おじさんくさいテーマだよなあと正直思う。歴史好きが高じて思い立った旅だった。当時の僕は戦国時代にドハマリしていたのだ。学校の図書館で時代小説を借りてきては、それを読みながら通学電車に揺られるのが日課になっていた。
 中でも好きだったのが池波正太郎の『真田太平記』である。幸村は関ヶ原の合戦で西軍に属し、大坂の陣で華々しい最期を飾った。夏の陣では敗戦濃厚な中でも一歩も引かず猛攻を続け、徳川家康の本陣まであと少しのところまで迫った。その獅子奮迅ぶりから「日本一の兵(ひのもといちのつわもの)」と讃えられることになる。
 戦国時代のエピソードというのはいずれも男子的なロマンに溢れているが、幸村の武勇伝は僕にとって別格で、すっかり魅了されてしまった。なにせ、バイトして稼いだ金でゆかりの地巡りまでしているぐらいだ。当時は単車を乗り回してもいたのだが、我が愛車に六文銭のマークをあしらうほどの熱の入れようだった。六文銭は真田家の家紋である。
 いまにして思えば、なんて痛い行動なのだろうと呆れるが、高校を卒業した後も熱は冷めなかった。大学時代はDJ活動に力を注いでいた。授業が終わると渋谷へレコードを買いに行き、夜はクラブで踊り明かす日々。これはさらに恥ずかしいのだが、この際もう開き直って書いてしまうと、そのときのDJネームが「DJ SAEMON」だった。真田幸村の官位である「左衛門佐」から取ったものである。
 ほかにも、戦国時代をテーマにした某シミュレーションゲームがらみのエピソードもたっぷりあるのだが……、それはまあ話がかなり長くなるのでまた別の機会にしたい。
 普段はまったくテレビを観ない生活をしているが、『真田丸』だけは毎回欠かさずチェックしている。ナスネ(ソニーのネットワークレコーダーですね)を導入して、どこかへ旅行中であってもほぼリアルタイムで視聴できる体勢を整えたほどである。史実に忠実でありながらも、予定調和ではなくドラマチックな展開でハラハラさせられる。自分の場合、予備知識がありすぎて楽しめないのではないかと懸念していたが、それも杞憂に終わった。きっと脚本がいいのだろうなあ。
 大河ドラマの影響で、旅行界ではいま真田巡りがブームになっているのだという。書店へ行くと、そのためのガイドブックまで販売されているほどだ。せっかくなので購入してみたら、想像した以上に内容も厚くて感心させられた。自分も昔、三国志の武将スポットを巡る旅のガイドブックを作ったことがある。めちゃくちゃ大変だったけれど、あれほど生き生きと取り組めた仕事はなかなかない。
 そういえば先日、僕の周りの旅友だちの中でも、さっそく真田巡りと称して上田詣でをしている者がいた。日頃から海外旅行へせっせと出かけるタイプなのだが、そういう旅人でさえも足を運びたくなる要素があるのだろう。いまでは東京から上田まで新幹線が開通しているから、楽に行けるようになった。
 実は七年前にも僕は上田を訪れていた。『サマーウォーズ』というアニメの舞台になり、その聖地巡礼が盛んだった頃だ(同作品中にも真田がらみのエピソードが少し出てくる)。秋真っ盛りで紅葉が美しい季節だった。探してみると、そのときの写真が見つかったので、季節外れで恐縮だが記念に掲載しておきたい。燃えるような真っ赤なモミジをバックに真田の赤備え……? これ自分です、はい。相変わらず行動が痛々しいのだが、高校生の頃から大して成長していない、ということで。

【新刊情報】
筆者の新刊『思い立ったが絶景』(朝日新書)が3月11日に発売になりました。絶景を目的とした旅について客観的に分析し、カラー写真を交えながらエッセイにまとめました。

※真田幸村→次回は「ら」がつく旅の話です!