2a. 連載:「タビノート」 下川裕治  2016/4/19号 Vol.070


2a. 連載:「タビノート」 下川裕治

月に何回か飛行機に乗る。最近はLCCの割合が増えている。そんな体験をメールマガジンの形でお届けする。

Profile
shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

航空会社が次々に変わっていく1

 ロシアのLCC──。ピンとこない人も多いだろう。実際、狭義のLCCはないように思う。記録には、スカイ・エクスプレスとアヴィアノヴァがLCCと記されていることがあるが、この2社とも姿を消している。サイトによっては、いまのロシアでいちばん見かけるS7航空をLCCにしているところもあるが、ちゃんと無料の機内食が出るから、LCCというのはどうかと思う。
 いま世界では、既存の航空会社とLCCの境界がなくなりつつある。ヨーロッパでロシアのアエロフロートに乗ると、その座席の狭さにLCCではないかと思うこともある。予約もLCCのそれに近い。そのあたりを突き詰めていくと、機内食になるような気がする。
 無料の機内食を出すか、出さないか……。
 結局はそこに行きついてしまう。
 その伝でいうと、ロシアにはLCCはない。これは聞いた話だが、ロシアではすべての航空会社に機内食が義務づけられているという。おそらくそのルールは変わっていないはずだ。つまりロシアはLCCを禁じているわけだ。
 しかしそれ以外の面ではLCC化がどんどん進んでいる。アエロフロートからLCCっぽくなってきているのだから、すべてがLCCといえなくもない。そのあたりがなんだかややこしいのだ。
 北極圏のムルマンスクにいた。今年の3月のことだ。ユーラシア大陸の南端から北端まで列車で旅をするという企画だった。終点がムルマンスクだったのだ。貨物列車ではなく、客が乗る列車が運行する最北端の駅がムルマンスクである。緯度は北緯68度58分。
 ムルマンスクに辿り着き、そこからは飛行機で帰国することにした。ルートはそう多くない。サンクトペテルブルクに飛ぶか、モスクワに出るか。この2通りだ。ムルマンスクの宿でネットをつなぎ検索してみた。モスクワに出たほうが安そうだった。
 不思議なことが起きた。いちばん安い航空券はアエロフロートだった。2時間40分ほどのフライトで、1万円強。ルーブル安も影響しているのかもしれないが、手頃な運賃だった。
 それを選択し、予約を進めようとすると、途中からノルダヴィア航空になった。サイトのなかで、航空会社が変わってしまったのだ。
「こういうことってあるだろうか」
 フライトの当日は吹雪だった。そのなかをマルシュルートカと呼ばれる乗り合いバンに揺られてムルマンスク空港に向かった。空港は雪に埋まっていた。ターミナルに入り、搭乗する便を掲示板で見ると、航空会社はS7航空になっていた。
 いったいどういうことだろう。
(この項つづく)

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ムルマンスク空港は雪に埋まっていた。北極圏の天候はめまぐるしく変わる