2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

Profile
プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅しながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第55回 吉田友和

し 春節

 沖縄に来ている。今回は旅行ではなく、短期で部屋を借り、一時的に移り住んでいる。元々旅先として沖縄は日本国内でもとくにお気に入りで、頻繁に訪れていたのだが、生活者として向き合ってみると、まだまだ新たな発見もたくさんあって毎日飽きない。
 たとえば那覇で暮らしていて感じるのは、外国人がやたらと多いなあということ。とくに目立つのは中華系の人たちだ。台湾やら香港やら。大陸本土から来たと思しき中国人も目にする。国際通りを歩いていると、そういった中華系の観光客ばかりで、あとは修学旅行生ぐらいしか見かけない。日本人のツアー客などは明らかに少数派といった感じだ。
 訪日客の激増化現象は、東京や大阪といった都市部だけでなく地方都市にも及んでいる。沖縄も例外ではないのだろう。いや、むしろ影響が顕著な地域の一つと言えるかもしれない。那覇空港にはLCC専用ターミナルがあり、国際線も飛んでいる。たとえば台北から那覇までは、わずか一時間のフライトである。僕もつい先日、那覇から台湾へ行ってきたのだが、本当にあっという間だった。台湾の人たちにとってみれば、沖縄は東京や大坂などよりも遥かに手軽に行ける日本なのだ。
 かつて国際通りのランドマーク的存在だったオーパは、いつの間にかドン・キホーテに変わっている。土産物屋には琉球グラスやちんすこうに混じってガンプラが売られており、看板には中国語の漢字が躍る。目を輝かせて爆買いをする彼らを尻目に、あえて外国人観光客が来なさそうな、よりローカルな路地を散策するのが我が日課となっている。
 訪日客を相手に商売をしている人たちにとっては千載一遇の商機である一方で、日本人の国内旅行者が割を食っている現実もある。この前、友人が那覇へ遊びに来ることになり、ホテルを予約しようとしたら、空室が全然なくて驚いた。本当にびっくりするぐらい空いていない。空きがある宿でも、相場を無視したような金額で泊まる気になれなかった。
「まだ一ヶ月以上も先なのに……」
 おかしいなあと訝り、理由を調べてみたら腑に落ちた。その時期がちょうど春節の期間とバッティングしていたのだ。中華圏の大型連休であるこの時期は、いつも以上に旅行者が増える。需要と供給のバランスが崩れ、普段は数千円で泊まれるビジネスホテルですら数万円に跳ね上がってしまうわけだ。
 春節の時期に中華圏の国々を旅するのは、覚悟が必要だった。どこへ行っても混んでいるし、行き先によっては飛行機や列車の座席を確保するのも至難の業となるからだ。僕自身は楽観的なタイプなので、華々しいお祭りムードが味わえるからと、あえてこの時期を狙って中華圏を旅したりもしたのだが……。
 遂には中華圏ではない我が日本国内を旅するにも、春節を意識せざるを得ない状況になってしまった。この時期に国内旅行をするのならば、中華系の旅行者がまだあまり来なさそうな場所を狙う方が賢明かもしれない。といっても、そういう場所もどんどん減っている。「中国人に会わない日本旅行」などというテーマのガイドブックがあったなら、少なからず売れそうな気もするなあ。
 個人的には、中華系の観光客に関してとやかく言うつもりはない。僕も旅行者として彼らの母国を何度も旅させてもらっているからだ。たぶん色々と迷惑もかけているだろうし、お互いさまだと割り切っている。けれど、世の中には快く思っていない人もいるようだ。
「うちは中国人はお断りしています」
 以前に取材をした某ホテルのマネージャーさんがそんなことを言っていた。当初は国籍に分け隔てなく受け入れていたのだが、あまりにもクレームが多かったため、ほぼ日本人限定に方針を変えたのだという。中国人といっても色んな人たちがいるわけだし、一概には語れないのだけれど、ホテル側としては状況に鑑みたうえでの苦肉の策なのだろう。
 台北から乗った那覇行きのフライトは満席だった。早くも春節がらみの訪日ラッシュが始まっているのだろう。つい先ほども、那覇市内でランチをしに入ったラーメン屋さんでずいぶん待たされた。店の外に行列ができており、入口で名前を書くのだが、見ると外国人と思しき名前ばかりでむむむと戸惑った。
 海外旅行だけでなく、国内旅行も積極的にするという旅人にとっては、なんだか複雑な時代になってきた。日本的な和の風情を求めて旅をしたら、中国へやってきたような錯覚に陥ったりする。円安だからと、海外旅行ではなく国内旅行を選択したらむしろ割高だった、なんて事態も普通に起こり得る。
 無論、悪いことばかりではない。訪日客を当て込んで新設されたLCC路線で、逆に海外へ行ってみたり。日本人には知られていないが、外国人に人気の日本の観光地を巡ってみる、なんてのもおもしろいだろう。旅を取り巻く環境が変化したとしても、自分なりに上手く工夫しつつ楽しみたいところだ。

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※春節→次回は「つ」がつく旅の話です!

2b. 連載:「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和  2016/2/9号 Vol.065


2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

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吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅しながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第55回 吉田友和

し 春節

 沖縄に来ている。今回は旅行ではなく、短期で部屋を借り、一時的に移り住んでいる。元々旅先として沖縄は日本国内でもとくにお気に入りで、頻繁に訪れていたのだが、生活者として向き合ってみると、まだまだ新たな発見もたくさんあって毎日飽きない。
 たとえば那覇で暮らしていて感じるのは、外国人がやたらと多いなあということ。とくに目立つのは中華系の人たちだ。台湾やら香港やら。大陸本土から来たと思しき中国人も目にする。国際通りを歩いていると、そういった中華系の観光客ばかりで、あとは修学旅行生ぐらいしか見かけない。日本人のツアー客などは明らかに少数派といった感じだ。
 訪日客の激増化現象は、東京や大阪といった都市部だけでなく地方都市にも及んでいる。沖縄も例外ではないのだろう。いや、むしろ影響が顕著な地域の一つと言えるかもしれない。那覇空港にはLCC専用ターミナルがあり、国際線も飛んでいる。たとえば台北から那覇までは、わずか一時間のフライトである。僕もつい先日、那覇から台湾へ行ってきたのだが、本当にあっという間だった。台湾の人たちにとってみれば、沖縄は東京や大坂などよりも遥かに手軽に行ける日本なのだ。
 かつて国際通りのランドマーク的存在だったオーパは、いつの間にかドン・キホーテに変わっている。土産物屋には琉球グラスやちんすこうに混じってガンプラが売られており、看板には中国語の漢字が躍る。目を輝かせて爆買いをする彼らを尻目に、あえて外国人観光客が来なさそうな、よりローカルな路地を散策するのが我が日課となっている。
 訪日客を相手に商売をしている人たちにとっては千載一遇の商機である一方で、日本人の国内旅行者が割を食っている現実もある。この前、友人が那覇へ遊びに来ることになり、ホテルを予約しようとしたら、空室が全然なくて驚いた。本当にびっくりするぐらい空いていない。空きがある宿でも、相場を無視したような金額で泊まる気になれなかった。
「まだ一ヶ月以上も先なのに……」
 おかしいなあと訝り、理由を調べてみたら腑に落ちた。その時期がちょうど春節の期間とバッティングしていたのだ。中華圏の大型連休であるこの時期は、いつも以上に旅行者が増える。需要と供給のバランスが崩れ、普段は数千円で泊まれるビジネスホテルですら数万円に跳ね上がってしまうわけだ。
 春節の時期に中華圏の国々を旅するのは、覚悟が必要だった。どこへ行っても混んでいるし、行き先によっては飛行機や列車の座席を確保するのも至難の業となるからだ。僕自身は楽観的なタイプなので、華々しいお祭りムードが味わえるからと、あえてこの時期を狙って中華圏を旅したりもしたのだが……。
 遂には中華圏ではない我が日本国内を旅するにも、春節を意識せざるを得ない状況になってしまった。この時期に国内旅行をするのならば、中華系の旅行者がまだあまり来なさそうな場所を狙う方が賢明かもしれない。といっても、そういう場所もどんどん減っている。「中国人に会わない日本旅行」などというテーマのガイドブックがあったなら、少なからず売れそうな気もするなあ。
 個人的には、中華系の観光客に関してとやかく言うつもりはない。僕も旅行者として彼らの母国を何度も旅させてもらっているからだ。たぶん色々と迷惑もかけているだろうし、お互いさまだと割り切っている。けれど、世の中には快く思っていない人もいるようだ。
「うちは中国人はお断りしています」
 以前に取材をした某ホテルのマネージャーさんがそんなことを言っていた。当初は国籍に分け隔てなく受け入れていたのだが、あまりにもクレームが多かったため、ほぼ日本人限定に方針を変えたのだという。中国人といっても色んな人たちがいるわけだし、一概には語れないのだけれど、ホテル側としては状況に鑑みたうえでの苦肉の策なのだろう。
 台北から乗った那覇行きのフライトは満席だった。早くも春節がらみの訪日ラッシュが始まっているのだろう。つい先ほども、那覇市内でランチをしに入ったラーメン屋さんでずいぶん待たされた。店の外に行列ができており、入口で名前を書くのだが、見ると外国人と思しき名前ばかりでむむむと戸惑った。
 海外旅行だけでなく、国内旅行も積極的にするという旅人にとっては、なんだか複雑な時代になってきた。日本的な和の風情を求めて旅をしたら、中国へやってきたような錯覚に陥ったりする。円安だからと、海外旅行ではなく国内旅行を選択したらむしろ割高だった、なんて事態も普通に起こり得る。
 無論、悪いことばかりではない。訪日客を当て込んで新設されたLCC路線で、逆に海外へ行ってみたり。日本人には知られていないが、外国人に人気の日本の観光地を巡ってみる、なんてのもおもしろいだろう。旅を取り巻く環境が変化したとしても、自分なりに上手く工夫しつつ楽しみたいところだ。

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※春節→次回は「つ」がつく旅の話です!