2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

Profile
プロフィール

吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅しながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第50回 吉田友和

う 雨季

 今年もツーリズムEXPOへ行ってきた。東京の国際展示場で開かれる、年に一度の旅の祭典である。初めて訪れたのは最初の世界一周から帰った直後だったから、通い始めてもうかれこれ十年以上になる。旅行などで不在の場合を除き、僕はほぼ毎年参加している。我が恒例行事のひとつだ。
 年を追うごとに規模が拡大してきたこのイベントだが、以前は「旅博」という名称だった。さらに遡れば、「世界旅行博」と呼ばれた時代もあった。ここだけの話、いつの間にかツーリズムEXPOなどと横文字のイベント名になってしまい、長年のファンとしては密かに違和感を覚えたりもしている。
 今年は海外関係の展示よりも、インバウンド関連ブースの方が勢いがあると感じた。英語や中国語で書かれた日本国内の観光パンフレットが目についたのだ。世界旅行の疑似体験がウリのイベントだったが、海外の人たちに日本旅行をアピールする場へと変わりつつある。そんな現状に鑑みると、イベント名は横文字の方が都合がいいのかもしれない。
 ツーリズムEXPOの会場は、大きくエリアごとに分かれている。ここでいうエリアとは、実際の世界の地域区分のことだ。すなわちアジア、ヨーロッパ、北米といった具合で、それらとは別枠で旅行会社が集まった区画なども設けられている。いちおう一通りは見て回ったが、アジアへの滞在時間が最も長くなってしまった。自分の興味を優先すると、やはりそういう結果になるようだ。
 新しい旅先を探すにはうってつけのイベントである。たとえば最近マイブームの台湾のブースでは、北部や中部、南部と地域別に細かく展示されていた。日本ではまだあまり知られていなそうなマイナーな街の情報も選り取り見取り。スタッフの台湾人と話して、オススメしてくれた美味しい店をメモに取ったり。期待した以上の収穫が得られ、台湾旅行がますます楽しくなりそうである。
 ほかにもベトナムやミャンマーなど、個人的にとくに関心の強い国のブースを重点的に回りつつ、歩き疲れたらタイのブースでリラックスした。「サワディーカー」とタイ語で挨拶されるだけで、ほっこり癒される。
「最近のタイはどうですか?」
 バンコクから来たと思しきタイ人女性スタッフに何気なく訊いてみた。
「いまは雨季ですね。雨が多いです」
 すると、そんな答えが返ってきた。気候について訊ねたつもりではなかったが……なるほど、雨季か。確かにタイはいまそんな季節である。バンコクのような都市部ならば、雨に降られても避難場所はある。困るのは地方の旅だ。雨季のチェンマイでトレッキングしたときは、ぬかるんだ山道を歩いたせいでドロドロになってしまったのを思い出す。
 そういえば、この前出した新刊でもタイの雨季のエピソードを綴っていた。スコールから逃げるために、慌てて路線バスに飛び乗った話だ。その本は東南アジアの旅エッセイを国別にまとめた短編集なのだが、一番最初がタイだった。果たして、あんな間が抜けたエピソードで巻頭を飾ってよかったものか。
 近頃は日本にいても、東南アジアのスコールのような大雨にしばしば降られる。つい先日は、関東地方でも信じがたい大災害に見舞われたばかりだ。家や車が水没し、ボートで避難する人々――タイのニュース映像ではおなじみの光景も他人事ではなくなってきた。
「日本もね、最近は雨が多いんですよ」
 会話の流れで僕がそう言うと、タイブースにいたタイ人女性は笑顔で相槌を打ってくれた。どこまで伝わったかは定かではないが、タイ人と雨の話をするのもいかにもタイっぽい感じがして、なんだか懐かしくなった。
 考えたら、今年は旅をしていて雨に悩まされてばかりだった。それも、ここぞという重要な場面で、不幸にも雨に降られることの繰り返しで、何度も心が折れそうになった。たとえば長崎の教会群を巡っていたときも、日本最北端の宗谷岬を目指したときも雨だった。中国へ九寨溝を見に行ったら見事に降られたし、夏の台湾旅行では台風が直撃して散々な目に遭ったばかりだ。ひょっとしたら自分は雨男なのではないか、という根本的な疑惑がいまさらながら浮上する。
 残り三ヶ月もあるというのに、早くも今年の旅を振り返ってしまった。年内もまだまだ旅は続く。実は明日からグアムなのだが、書いているうちに急に天候が心配になってきた。どうか晴れますように!

※雨季→次回は「き」がつく旅の話です!

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2b. 連載:「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和  2015/10/6号 Vol.056


2b.「旅のしりとりエッセイ」 吉田友和

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吉田友和(よしだともかず)

1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行にして夫婦で世界一周旅行を敢行。旅の過程を一冊にまとめた『世界一周デート』で、2005年に旅行作家としてデビュー。「週末海外」というライフスタイルを提唱。国内外を旅しながら、執筆活動を続けている。その他、『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(講談社)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『LCCで行く! アジア新自由旅行』(幻冬舎)、『めざせプチ秘境!』(角川書店)、『3日もあれば海外旅行』(光文社)など著書多数。
旅行作家★吉田友和 Official Web

しりとりで旅する 第50回 吉田友和

う 雨季

 今年もツーリズムEXPOへ行ってきた。東京の国際展示場で開かれる、年に一度の旅の祭典である。初めて訪れたのは最初の世界一周から帰った直後だったから、通い始めてもうかれこれ十年以上になる。旅行などで不在の場合を除き、僕はほぼ毎年参加している。我が恒例行事のひとつだ。
 年を追うごとに規模が拡大してきたこのイベントだが、以前は「旅博」という名称だった。さらに遡れば、「世界旅行博」と呼ばれた時代もあった。ここだけの話、いつの間にかツーリズムEXPOなどと横文字のイベント名になってしまい、長年のファンとしては密かに違和感を覚えたりもしている。
 今年は海外関係の展示よりも、インバウンド関連ブースの方が勢いがあると感じた。英語や中国語で書かれた日本国内の観光パンフレットが目についたのだ。世界旅行の疑似体験がウリのイベントだったが、海外の人たちに日本旅行をアピールする場へと変わりつつある。そんな現状に鑑みると、イベント名は横文字の方が都合がいいのかもしれない。
 ツーリズムEXPOの会場は、大きくエリアごとに分かれている。ここでいうエリアとは、実際の世界の地域区分のことだ。すなわちアジア、ヨーロッパ、北米といった具合で、それらとは別枠で旅行会社が集まった区画なども設けられている。いちおう一通りは見て回ったが、アジアへの滞在時間が最も長くなってしまった。自分の興味を優先すると、やはりそういう結果になるようだ。
 新しい旅先を探すにはうってつけのイベントである。たとえば最近マイブームの台湾のブースでは、北部や中部、南部と地域別に細かく展示されていた。日本ではまだあまり知られていなそうなマイナーな街の情報も選り取り見取り。スタッフの台湾人と話して、オススメしてくれた美味しい店をメモに取ったり。期待した以上の収穫が得られ、台湾旅行がますます楽しくなりそうである。
 ほかにもベトナムやミャンマーなど、個人的にとくに関心の強い国のブースを重点的に回りつつ、歩き疲れたらタイのブースでリラックスした。「サワディーカー」とタイ語で挨拶されるだけで、ほっこり癒される。
「最近のタイはどうですか?」
 バンコクから来たと思しきタイ人女性スタッフに何気なく訊いてみた。
「いまは雨季ですね。雨が多いです」
 すると、そんな答えが返ってきた。気候について訊ねたつもりではなかったが……なるほど、雨季か。確かにタイはいまそんな季節である。バンコクのような都市部ならば、雨に降られても避難場所はある。困るのは地方の旅だ。雨季のチェンマイでトレッキングしたときは、ぬかるんだ山道を歩いたせいでドロドロになってしまったのを思い出す。
 そういえば、この前出した新刊でもタイの雨季のエピソードを綴っていた。スコールから逃げるために、慌てて路線バスに飛び乗った話だ。その本は東南アジアの旅エッセイを国別にまとめた短編集なのだが、一番最初がタイだった。果たして、あんな間が抜けたエピソードで巻頭を飾ってよかったものか。
 近頃は日本にいても、東南アジアのスコールのような大雨にしばしば降られる。つい先日は、関東地方でも信じがたい大災害に見舞われたばかりだ。家や車が水没し、ボートで避難する人々――タイのニュース映像ではおなじみの光景も他人事ではなくなってきた。
「日本もね、最近は雨が多いんですよ」
 会話の流れで僕がそう言うと、タイブースにいたタイ人女性は笑顔で相槌を打ってくれた。どこまで伝わったかは定かではないが、タイ人と雨の話をするのもいかにもタイっぽい感じがして、なんだか懐かしくなった。
 考えたら、今年は旅をしていて雨に悩まされてばかりだった。それも、ここぞという重要な場面で、不幸にも雨に降られることの繰り返しで、何度も心が折れそうになった。たとえば長崎の教会群を巡っていたときも、日本最北端の宗谷岬を目指したときも雨だった。中国へ九寨溝を見に行ったら見事に降られたし、夏の台湾旅行では台風が直撃して散々な目に遭ったばかりだ。ひょっとしたら自分は雨男なのではないか、という根本的な疑惑がいまさらながら浮上する。
 残り三ヶ月もあるというのに、早くも今年の旅を振り返ってしまった。年内もまだまだ旅は続く。実は明日からグアムなのだが、書いているうちに急に天候が心配になってきた。どうか晴れますように!

※雨季→次回は「き」がつく旅の話です!

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